2015年4月に開かれたバルセロナ・オープン決勝、錦織圭が連覇を達成。左が中尾公一さん。 写真=Bagu Blanco/アフロ
(取材・文:松原 孝臣 撮影:積 紫乃)
わからなくてもいいから
「今まで芸術系のスポーツは見たことがなかったし、わからないし、でも、『それでもいいです』とのお話でした」
笑みを浮かべつつ、トレーナーの中尾公一は語る。彼が語るのは、フィギュアスケートについてだ。現在、佐藤駿のトレーナーを務める。
佐藤は現在高校2年生。昨シーズン、ジュニアグランプリファイナルでジュニア歴代最高得点をマークして優勝するなど近年、目覚ましい活躍を見せている。武器とする4回転ジャンプを中心に、将来を嘱望される選手だ。
2019年12月に開催されたジュニアグランプリファイナル、男子シングルで優勝した佐藤駿(中央)。FSでは高難度の4回転ルッツを決めた。写真=長田洋平/アフロスポーツ
「お話をいただいたのは、今年の2月だったか、春先だったか、はっきりは覚えていないです」
依頼があったときを振り返りつつ、語る。それは中尾にとって、意外な感があった。それまでさまざまな競技の選手やチームを担当してきたが、フィギュアスケートに縁はなかったからだ。
「わからなくてもいいです、ということだったので」、依頼を引き受けた。でも、「本当はやるつもりはなかった」とも明かす。実際、佐藤からの話が来る前にあった別のオファーは断った。トップアスリートにつくことについて、「もういいかな」という気持ちがあったという。
その背景には、達成感があった。