富士通株式会社 シニアフェロー 宮田一雄氏
※本コンテンツは、2019年3月1日に開催されたJBpress主催「Digital Innovation Forum 2019 <春> ~デジタル変革によるイノベーションの実現~」での講演内容を採録したものです。
DXの実現には「バイモーダル」の人材調達が必要
富士通は通信事業からスタートし、コンピューター事業、SI事業へと軸足を移してきました。2000年頃から変革の波、市場の成熟化などの影響を受け、売り上げは減少しました。デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れの中で、お客様が自らプラットフォーマーとなる、あるいはサービス提供者となる動きが加速し、SIerは中抜きされる時代です。新しい価値を生み出さないと、デジタル化の波に飲まれてしまうという危機感を強く持っています。
日本の現状を見渡すと、ガートナーの調査では約2割の企業がデジタルビジネスの取り組みで先行していますが、残りは情報収集、PoC(概念実証)の段階にとどまっています。なぜかと言うと、0から1を生み出すようなデジタル人材が不足しているからです。日本ではユーザー企業側にITエンジニアが少ないため、デジタルビジネスの推進のためには、外部のITベンダー、SIerに頼らざるを得ません。一方、欧米ではユーザー企業側にITエンジニアがいるので、自社でどんどん変革することができます。両者の違いは人材流動性の問題も関係しています。
デジタルビジネスでは、かつての基幹システムのような強固な情報システムはいりません。クラウドサービスなど、既存の技術を自在に組み合わせることで、新たな価値やサービスを提供していきます。当然、システム開発に必要な人材像も変化しています。ウォーターフォール型のプロセスでしっかり問題を解決するというやり方ではなくて、仮説を定義して、やってみて、高速に回転する、アジャイル型の進め方ができる人材です。それぞれの企業において「バイモーダル」で人材が必要になります。
“モード1”は、われわれのようにきっちり決まったことをしっかりやるという人材。一方、新しいDXの時代に、最新のテクノロジーを使い、データを分析して、それをフィードバックして、どんどん変化していく、新しいことにチャレンジをしていくような人材が“モード2”です。既存の企業はどちらか一方ではなく、バイモーダルで人材を調達する必要があり、そこに難しさがあると痛感しています。
2つの行動様式“バイモーダル”が必要|出典:ガートナー足立氏の資料をもとに作成拡大画像表示
「デジタルイノベータ」に人材をトランスフォーム
問題解決型人材(モード1)と探索型人材(モード2)が一緒になって、新しいサービスを生み出していくバイモーダルの時代に、富士通はどのような取り組みをしているのか。SIerは従来、企業の情報システム部門をパートナーとして受託型のビジネスをやってきました。DXの時代には、情報システム部門だけでなく、お客様企業の経営者、事業部門にも価値を提供できる存在にならないといけません。
デジタルビジネス時代の新たな接点|出典: ITR内山氏の資料をもとに作成拡大画像表示
そのために、われわれは1万4000人のSEに対して2015年に“SE4.0”というコンセプトを打ち出しました。「システムエンジニア」「ソリューションエンジニア」は従来からあるSE像で、新たに加わったのが、お客様からの受発注ではなくて、われわれの価値を対等な立場で提供させていただき、新しい価値を生み出す「シナジーエンジニア」と、富士通自身のシーズ、研究所のコアのテクノロジーをベースに、世界にサービスを打ち出していく「シードエンジニア」です。
当時は、メディアを使って社内を啓蒙していました。「Digital Innovation Lab」「あしたのコミュニティーラボ」といった社内メディアを立ち上げ、探索型人材の発掘も行いました。併せて、お客様とイノベーションを共創する“場”も国内外に設置し、延べ3,000人を超える方々と0から1を生み出すプロセスを実践してきました。こうした取り組みの結果、会社としては人材育成という効果を、社員個人としてはモチベーションの向上という効果が得られたと思います。
共創のさらなる加速に向けて、2017年には専門組織を発足。「Digital Journey~富士通は旅人と共に歩む」というスローガンも掲げました。デジタルジャーニーを支える人材、技術、場はそろいましたが、お客様との共創を通じて、富士通自身が新しいサービスを生み出していくところまでは達していません。これを実現する人材を増やしていく必要があります。
そのために、従来の営業、コンサルタント、SEに代わる新たな職種「デジタルイノベーター」もつくりました。2017年度に180人からスタートし、教育・研修を行い、3年間で1,000人まで拡大していく予定です。引き続き課題解決型のビジネスをやりながら、成長領域の価値創造型のビジネスをやるために、社内の人材をデジタルイノベーターにトランスフォームして、アジャイル開発を進めていく方針です。
共創をプロデュースするデジタルイノベーターの役割拡大画像表示
既存事業と新規事業を分けた“2階建て経営”が不可欠に
この2年間の変革と人材育成を通じて、成果と課題も見えてきました。成果は、デザイン思考とアジャイル開発の手法を用いた、AIチャットボット「CHORDSHIP」の事例です。お客様との徹底した共創を通じて、富士通の新たなソリューションの創出につながっただけでなく、従来の個社の受発注案件の横展開といったビジネスモデルからの脱却も可能になりました。情報システム部門ではなく、事業部門から直接、RFP(提案依頼書)なしのご依頼も増えていますし、AI適用のコンサルティングビジネスは着実に積み上がっています。
お客様の真のDXのパートナーを目指し、Pivotalとの提携も実施しました。同社のグローバルで培われた知見、リーン&アジャイルの開発手法を吸収し、SoE(System of Engagement)とSoR(System of Records)の両輪でお客様の価値創出を支援すべく、2018年10月には、「富士通アジャイルラボ」も共同で設立しました。お客様の意識が変化する中で、今後はアジャイルスペシャリストの拡大にも注力していきます。
一方の課題は、既存事業の効率化と、新規領域の創出は分けないとできないことです。明確に分けた“2階建ての経営”が必要だということです。課題解決型・請負型モデルの1階と、価値共創型・サービスモデルの2階とでは価値観が異なります。
1階は、PDCAを回す、安心安全が最優先、品行方正な人材がルール通り決められたことをきっちりやる、そして管理する。標準化してコストを下げるといった価値が重視されます。しかし、DXの世界で戦っていくためには、そんなスピード感では間に合いません。2階は、PDCAではなくて、OODA(Observe、Orient、Decide、Act)、安心安全よりも、ビジネスアジリティーを優先します。品行方正、言われたこときっちりというよりは、志を持って突破していく。そういう人たちが自律して、倫理観を持ってやっていく。標準化よりは変化への対応力。こういった価値観の人材を探して、あるいは外から持ってきて、2階でビジネスを立ち上げていくのです。
2年間の経験で私が学んだことは、DXがうまくいかないのは、トップは危機感を持ち、DXの推進幹部を決める。優秀な人材に研修を受けさせるが、何も生まれないというケース。うまくいくケースは、探索型人材を社内外から見つけて、志を確認し、本物を絞り込んで、事業化を支援する。そのための安全地帯をつくることです。
これまでの人材育成、研修プログラムをベースに、「Fujitsu Digital Business College」を2017年からお客様向けに提供しています。実践的なプログラムで、デジタルビジネスをけん引するビジネスリーダーの育成を支援していきますので、ぜひ、ご参加ください。

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