ここで自分のスケート人生をやり切りたい

2021年12月25日、全日本選手権、FSを演じる渡辺倫果 写真=西村尚己/アフロスポーツ

 2020年になると新型コロナウイルス感染が世界的に拡大。帰国をよぎなくされ、当初は木下アカデミーで練習させてもらった。

「ジャンプ成功の確率も上がりましたし全体の質も上がりました。でも次は、練習ではできるのに試合ではうまくいかないという状況に陥りました」

 2020年12月の全日本選手権は27位で終えている。

 2021年4月、法政大学に入学するとともに首都圏に戻ることになった。

「通信とはいえ、テストで学校に行かなければいけない条件でした。そこでちょうど開校するMFアカデミーに『預かり』という形で練習させてもらうことになりました。2か月ほど経った頃、ここで自分のスケート人生をやり切りたいと思いました」

 練習環境が充実していることが理由にあった。でもそればかりではなかった。MFアカデミーの中庭健介コーチとの出会いがあった。それが運命を変えた。

「『試合が怖くなるんです』という話をしたときにこう言っていただきました。『もちろん成功する確証はどこにもないけど、練習で失敗しているからといって試合で失敗する確証なんてどこにもないでしょう』」

 そのとき、はっとした。

「今まで自分で縛り上げていた鎖みたいなものが外れたなっていう感覚がありました。自分で自分の体に鎖を巻いていたことにまず気づいて、もちろんトラウマみたいなものなのでたまにブラッシュバックしますけど、それでも縛られることはなくなってきました」

 鎖がほどけた――それを象徴するような大会が2021年12月の全日本選手権だった。ショートプログラムで8位につけるとフリーでは冒頭のトリプルアクセルを含めすべてのジャンプに成功するなどマイナスの評価が1つもない完璧な演技を披露。それまで一桁の順位になったことはなく前年は27位であったこの大会で6位になったのである。その成績により世界ジュニア選手権の代表に初めて出場を果たした。