(写真右)小木曽工業株式会社 代表取締役社長 小木曽 正規氏
(写真左)小木曽工業株式会社 生産管理部 部長 福田 篤史氏

 愛知県名古屋市に本社を置く小木曽工業は、「みがき棒鋼」という製品の製造や、それを基盤とした加工技術に強みを持つ中堅メーカー。2015年当時、100億円弱あった同社の年商のうち、6割近くは自動車関連の売り上げだったという。しかし自動車部品は利益率が低いという課題から、事業形態を変更し、より付加価値の高い製品を提供しようと、SAP ERP導入による“構造改革”に着手した。その過程について、プロジェクトを牽引した小木曽正規代表取締役社長と福田篤史生産管理部部長に聞いた。

2015年当時、事業ポートフォリオに見えた課題

 80年以上の歴史を持つ小木曽工業は、みがき棒鋼といった製品や、それを基にした加工技術で成長してきた。同社の製品は自動車や産業機械、FA(ファクトリーオートメーション:工場の自動化)などさまざまな分野で活用されており、取引先の領域も多岐にわたる。

 なかでも主要な取引先が自動車産業だ。2015年当時、売り上げの6割近くを自動車関連が占めていた。そして同社は、二つの理由からこの状況を「経営課題」として捉えていたという。小木曽氏が説明する。 

 「一つ目に、自動車関連の製品は利益率が低いという理由がありました。一概には言えないものの、付加価値率は20%に満たないことも珍しくありません。またもう一つの理由として、自動車産業の事業環境が変化していたことが挙げられます。中国などに生産拠点を移す企業も増え、今までのように、国内の自動車産業全体の成長と当社の成長が比例するとは言えない状況になっていました。こうした理由から、付加価値を高める方向にシフトしなければと考えたのです」

 そこで同社は、より付加価値の高い製品やその製造方法を模索し始めた。例えば、同社製品の中でも利益率の高い品目の売り上げ比率を伸ばす、あるいは製造方法を最適化して製品あたりの利益率を高めるといった方法論が挙げられた。

 具体的な策を練り始めたが、今度は新たな課題に行き当たった。付加価値を高める方法を検討するにあたり、その判断材料となる数字やデータ、経営指標が揃っていなかったのだ。

「それまでの当社の生産管理システムは、組織や工場、お客さまによって入力の仕方にばらつきがあったため、さまざまなパターンのデータや指標が混在した状態でした。すると、当社製品の中で付加価値の高いものはどれか、また現状の生産方法をどう変えれば付加価値が高まるかを適切に判断するのが難しかったのです」(小木曽氏)

小木曽工業株式会社 代表取締役社長 小木曽 正規氏

 小木曽工業は東海地方に5つの生産拠点を持つ。当時のシステムは、人や工場の動きに合わせてシステムをカスタマイズしながら作り込んだもの。その結果、工場ごとに管理が異なり、出てくるデータに統一性がない、あるいはシステムに関連する作業が属人化してしまったという。それが上記の要因にあった。

 データという面では、毎月の経営データを取得するまでの時間的なロスも課題だった。継続的に利益を高めるには、毎月の経営が計画通りかすばやく見極める必要がある。しかし同社では、毎月20日に締めて、翌月1週目に数字を把握できるというスピード感だった。それにより経営判断が後手に回っていたという。

経営判断を支える生産管理レベルの向上と経営データ

 こうした中で、同社は付加価値を高める一手としてデータシステムの課題を解決することに。そこで検討したのがERPの導入だった。

「ERPは生産管理にとどまるシステムではありません。会社全体のお金の流れを把握でき、それらが経営データと連動します。つまり、当社の取り組み一つ一つに対する成果を測ることが可能になります。すると、仮に構造改革の中で間違った手を打ったとしても、すぐに気づいて修正することができるでしょう」(小木曽氏)

 ERPを導入するとなれば、もちろん一定の費用はかかる。しかしそれ以上に、構造改革を進める上で「この方向で良いのか」という経営判断ができない状態は危険だと捉えた。あらゆる部門のデータを統合し、一つ一つの打ち手に対して経営の成果を確認できるERPは重要だと考えたという。

 加えて、同社のみがき棒鋼は20年以上、基本的な作り方は変わっていないとのこと。その中で付加価値を出すには、生産管理レベルを上げることが重要になる。製品あたりの利益率を高める意味でもERPが有効だった。

 実際に同社が採用したのはSAP ERPだ。理由として「世界・業界標準で多くの日本の製造業にも使われているシステムであるSAPに業務を合わせれば、当社の経営管理及び業務レベルを上げられると考えたからです」と小木曽氏。逆にカスタマイズや追加開発は極力しない方針をとった。

「追加開発をしない方針は、過去からの反省でもあります。前のシステムではカスタマイズを重ねたことにより、属人化を招きました。カスタマイズをしていけば、確かに現場の使いやすさは向上するかもしれません。しかし会社全体のレベルアップにはつながらないと感じたのです」

小木曽工業株式会社 生産管理部 部長 福田 篤史氏

 こうした考えから、同社ではSAPの標準機能を中心に導入し、カスタマイズや追加開発は最小限に。むしろ人の業務をSAPのシステムに合わせていった。

 導入プロジェクトを率いた福田氏は「もちろん苦労もありましたが、標準機能中心に導入したことにより、各工場や部門のデータが統一されてつながっています。どの工場で何が欲しいかシステムから分かりますし、計画から遅れが生じてもすぐにSAPが知らせてくれるので対策が取れます」と話す。

 なお、SAP導入プロジェクトは若いメンバー中心で進められた。入社4〜6年目、20代の社員が多数名を連ねたという。これはプロジェクトオーナーを務めた当時の小木曽茂代表取締役会長(現相談役)の強い思いによるもの。「固定概念にとらわれず、新しい発想で作ってほしいという考えでしたね」(福田氏)

構造改革後は「高付加価値」領域への比重が増加

 SAP ERP導入により、「経営判断に使える指標が増えたことが一番大きい」と小木曽氏。これまでは工場単位などで売り上げや利益を把握していたが、現在は品目ごとに細かく原価や利益率が分かるように。「付加価値の出しやすい品目が明らかになり、そちらに経営資源を投入していけるようになりました」(小木曽氏)

 その結果、経営改革は進み、自動車関連の売り上げは4割ほどに。変わって付加価値の高い産業機械の割合は、改革前に1.5割ほどだったものが2割近くにまで増えた(いずれも2023年時点)。これらも後押しし、同社は構造改革後に過去最高の売り上げを達成している。

「SAPで精緻なシミュレーションができるため、付加価値を高めるには何をすれば良いか、この製品の金額をいくら値上げすれば会社全体でどれだけの効果を生むのかも見えてきます。成果を出すための施策を考えられるようになりました」(小木曽氏)

 また、たとえ施策が望んだ通りに行かなくても、撤退の意思決定や方向転換をいち早く行えるのも大きいという。明確に原価や利益が分かるので、撤退判断が曖昧にならないとのことだ。

 現場のスタッフも導入効果を感じている。福田氏は「何となくではない、データで話せるようになったのは現場にとってもメリットですね」という。例えばかつては在庫があっても、それが良い在庫か悪い在庫か見極めが難しかったが、SAPで判断できるように。「導入前の状態に戻りたいとは思わないですし、入れて正解だったと考えています」と話す。

 付加価値の模索からスタートした小木曽工業の構造改革。その成果を下支えしたのがSAPだったといえるだろう。

中堅・中小企業にとって変革の味方となるSAP

 SAP導入企業の8割は小木曽工業のような中堅・中小企業である。そしてSAPの中でも中堅・中小企業に最適なERPソリューションとなるのが「GROW with SAP」だ。

 「GROW with SAP」は、ERP導入において企業が苦労するポイント、特に中堅・中小企業が直面しやすい課題をSAPとして手厚く支援するのが特徴だ。

 例えば「ERPの導入は時間がかかる」という企業の声も少なくない。SAPでは導入に際して「Fit to Standard」を提唱している。具体的にはテンプレートとして「GROW with SAP」に25業種分のベストプラクティスを用意しており、これにより導入スピードが迅速になり、コストの軽減につながるのはもちろん、業務体系の効率化や全体最適化の実現によって脱属人化も可能になるという。

 小木曽工業の事例にもあったように、人の業務をシステムに合わせることでさまざまなプラスが生まれるという考え方だ。

 そのほか、ERP導入後の「社内定着率」を高めることも重要だ。導入しても従業員が十分に活用しなければ効果は生まれにくい。そこで「GROW with SAP」では、自己学習のためのコミュニティや学習コンテンツなども提供する。コミュニティではSAPエキスパートやパートナー、ユーザーが集まる。学習コンテンツも併用することで、より社内定着率を高められるという。

 経営改善や変革に取り組む中堅・中小企業にとって、強い味方となりうる「GROW with SAP」。次のステージへ行くための足がかりに活用するのも一つの手ではないだろうか。

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