街の中心・ノートルダム大聖堂とエッフェル塔

 パリの歴史は、紀元前3世紀頃に「パリシイ人」がシテ島に集落をつくったことに始まります。それが地名の由来で、パリシイ人はシテ島を交易の拠点にし、古代ケルトの神を祀った祭壇を設けます。そこは聖地になり、12世紀からは200年近い歳月をかけて、ゴシック建築の傑作・ノートルダム大聖堂が建立されたのです。現在、火災からの再建工事が進められ、今年12月の公開を目指しています。

再建が進められているノートルダム大聖堂(火災前) 写真=フォトライブラリー

 ノートルダム大聖堂で、ぜひ対面してほしいのがガーゴイルです。ガーゴイルとは、怪物や悪魔などのグロテスクな彫刻で、元は屋根に置かれ、雨樋から集めた水を吐き出す排出口。それがフランス革命によって破壊されたため、19世紀の修復で、本来の目的とは別のただの“怪物たち”が多数加えられました。

 狭い387段のらせん階段を登って、2つの塔の真下にある空中回廊(高さ46メートル)にたどり着くと、欄干から身を乗り出すように“いるわ、いるわ”……どこかお茶目な怪物がずらっと並んでいます。

 私のイチ押しは、頬杖をついてパリの街を眺め、その行く末を案じている2本角と翼をもつ悪魔! 彼らが修復のためにノートルダム大聖堂から外された数日後に、火災が起こったと聞くと、因縁めいたドラマを感じます。

ノートルダム大聖堂のガーゴイル 写真=フォトライブラリー

 そして、もし1889年のパリがすでに世界遺産だったとすれば、エッフェル塔の建設によって「登録」は抹消されていたかもしれません。パリ万国博覧会の開催のために計画された、高さ300メートルの塔は、「醜い骸骨」だとごうごうたる非難を浴びました。

 芸術家たちは、美に対する犯罪であると訴えたのです。しかし実際に博覧会が始まると、およそ200万人もの大衆が、水圧ポンプで作動するエレベーターで展望台へ昇り、街を見下ろすという新たな眺望に拍手喝采を送りました。

 設計にあたった鉄橋技師エッフェルは、「塔そのものが美になる」と信じていました。真下から見上げると、「鉄の貴婦人」と呼ばれることに頷けます。鉄でレースの網目文様のような設計がなされ、むき出しになった鉄骨が優美に舞っているのです。直線と曲線の得もいわれぬコントラストは、まさに構造が「美」そのものだと思います。

シャン・ド・マルス公園に建つエッフェル塔 写真=フォトライブラリー