dentsu Japan チーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサー 吉羽 優子氏

 企業変革には新たなリーダーシップが必要だ。国内電通グループ約150社で構成される「dentsu Japan」では、チーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサーに吉羽優子氏が就任した。企業カルチャーの醸成を担うマネジメントの存在は、国内ではまだまだユニークだが、果たして、吉羽氏が目指すdentsu Japanの新しいカルチャーとはどのようなものか。クライアントや社会にもたらす付加価値などと併せて聞いた。
(聞き手:Japan Innovation Review編集長 瀬木友和)

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dentsu Japanは「掛け算のプラットフォーム」

――2024年1月に就任した、dentsu Japan チーフ・ブランディング/カルチャー・オフィサー(CBCO)のミッションについて教えてください。

吉羽優子氏(以下敬称略) ひと言で言うと、国内電通グループのブランディングとカルチャーの醸成です。dentsu Japanという国内の約150社、約2万3000人で構成されるネットワークの良さや魅力を内側から引き出しながら、社外にそれを伝えていくことが主な活動です。

 直前まで所属していたサステナビリティコンサルティング室は、クライアント企業向けの業務がメインでしたが、CBCOは自社グループのために仕事をします。会社の数や人数などカバーすべき範囲が圧倒的に増えたので、意識的に視座を上げるよう努めています。

――dentsu Japanはリアルな組織ではなく、国内グループのネットワークの総称とのことですが、そうした、いわば“仮想組織体”に吉羽さんのようなCxOやエグゼクティブ・マネジメント(以下EM)が存在するのはなぜですか。

吉羽 CBCOに就任した当初、「dentsu Japanって何だろう?」と、CEOや他のEMと改めて議論しました。公式な定義はもちろんありますが、社員一人一人にとって、あるいは社会の皆さまから見たときに、果たしてdentsu Japanはどういう意味を持つのかを考えた結果、dentsu Japanは「掛け算のプラットフォーム」という結論に至りました。

 グループ会社が150社もあれば、事業領域もさまざまです。独自性のあるそれらの会社の中には個性豊かな社員がいっぱいいます。1つのネットワークにするからといって、その個性をなくすことは絶対にしたくありません。

 社員が個性を生かしながら、クライアントや社会に価値を提供していくには、それぞれの個性や能力が掛け算しやすい制度、環境、文化をつくっていくことが必要であり、その掛け算を促進するために、私たちEMが存在すると考えています。

インテグリティの実践は引き続き課題

――吉羽さんは、「ブランディングとカルチャーは表裏一体」「いかに一人一人に内在する情熱・思いを開花させていけるかが、活力あるカルチャー醸成の源泉」といった考えをお持ちと伺いました。どういうことでしょうか。

吉羽 誰もが絶対に情熱や思いを持っています。それを組織として花開かせてあげることによって、その人自身が組織のカルチャーの体現者となり、内外に発信して、認知されることで、企業ブランドを形成するという考え方です。dentsu Japanの場合、特にその傾向が強いと感じています。

カルチャーとブランディングの捉え方
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 インターナルコミュニケーションとリクルーティングを主な目的として、社員動画プロジェクトを進めています。「dentsu Japan Passion 100」というタイトルで、社員一人一人の仕事やプライベートに通底する情熱を100秒の映像に収めて紹介するものです。「100秒で語られる、100通りのパッション。」をスローガンに、100人目指して撮影していますが、やればやるほど、社員の熱い思い、いろいろな「これがやりたい」が分かって、改めてそれがdentsu Japanの強みになっていると実感します。

dentsu Japan Passion 100
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――多様であるがゆえに、ブランディングやカルチャー醸成にあたって混乱が生じることはないのですか。

吉羽 ご指摘の通りです。だからこそ、企業グループとしてのパーパスが大事だと思っています。グローバルを含む電通グループでは「an invitation to the never before.」を掲げています。「まだ見ぬ世界を、より良い世界を、社内外の仲間をいざないながら、生み出していく」というのが、私の解釈です。

 社員一人一人が自分なりの形で「never before」にトライしていくという、非常に大きな概念ですが、懐が深いパーパスだからこそ、多様な個性や情熱を企業グループとして受け止められると思っています。

dentsuのパーパス(「電通グループ 統合レポート2023」より https://www.group.dentsu.com/jp/sustainability/common/pdf/integrated-report2023_all.pdf)
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――吉羽さんが取り組まれているカルチャー醸成には、企業文化の変革の意味合いも含まれていると思います。そもそも企業文化はどこまで自発的、能動的につくれるのでしょうか。カリスマ的なトップがリードしていく側面が強いのではないか、とも思いますが。

吉羽 確かに、カリスマ経営者がカルチャーをつくるケースもあると思いますが、dentsu Japanはそうではないと思っています。

 前述の通り、ボトムアップの力がものすごく強い会社であり、多様な個性とスキル、情熱を持った人々の集合体ですから、一人一人が生き生きと働ける環境をつくることを考えたときに、各人の中で自発的に生まれているものをもっと花開かせるようにするのが経営の役割だと思います。

――「電通は、大きな労務問題を契機に働き方改革を進め、この数年で劇的に働き方を変え、同時に企業文化を激変させています」と、電通コーポレートワンの早田さんは語っています。吉羽さんから見て、何が大きく変わりましたか。

吉羽 早田が申し上げた通り、働く時間と働き方は大きく変わりました。年功序列の仕組みも少しずつ変わり始めていて、だからこそ、私のような経営層としては若手の人間が今回EMに指名されたとも言えます。

 女性活躍推進については道半ばですが、社員と話している中で、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)に対する意識の高まりを実感することも多いです。

 こうした変化の一方で、インテグリティ(誠実、高潔)の実践についてはまだ取り組む余地があると認識しています。さまざまな事案を契機に、インテグリティが最優先される組織風土の定着を目指して、施策を推進しています。その結果、インテグリティに対する認知や理解は進み、実践もされ始めていますが、より高いレベルでの実践を目指せると思っています。

 正しい企業活動とは何かを議論する、経営陣と社員の対話を中心とした取り組みは継続的に進めています。今後は外部の人も交えた形でdentsu Japanのインテグリティについて議論を深めて、新たな気付きも得ながら浸透を図っていくことも考えています。

パーパスを体現する組織へ変わる3つの戦術

――CBCOとして、「活力あるカルチャーの再興・醸成」を通じて「社会に活力を生み出すdentsu Japan」を目指すとのことですが、「再興」の言葉に込めた思いをお聞かせください。

吉羽 やはり、この5~10年でいろいろな事案により、企業風土を変革する必要性に度々迫られてきたこと、また、市場環境がドラスティックに変わり、事業そのものも変革を迫られてきた中で、自分たちのアイデンティティや、よりどころが揺らぎがちになっていました。その揺らいでしまっているものを、もう一度強固なものにしていきたいという意志を「再興」に込めました。

――活力あるカルチャーの再興・醸成に向けては、戦略と戦術に分けて、取り組みを実践していくそうですね。

吉羽 戦略レベルでいうと、最終的にはパーパス「an invitation to the never before.」をどれだけ体現できる組織に変わっていけるかが重要で、これは半年、1年の短期間では難しくて、3~5年かけて継続してやっていくことが必要だと思っています。

 一方、そこを目指してすぐに着手できる戦術は3つあります。1つは「視点」を変えること。インテグリティのところでお話ししたように、社内の閉じた議論にとどめるのではなくて、社外の人を巻き込んで新たな視点を得たり、メディアを通じて幅広いステークホルダーに向けて情報発信を行い、示唆や反響を得たりすることです。

 2つ目は「空気」を変えること。例えば、定型化された会議に参加できるメンバーの枠を広げて、現場の社員にも情報をオープンにして、インタラクティブなコミュニケーションを実践することです。

 3つ目は「仕立て」を変えることです。よく他社でも、タウンホールミーティングと称して、経営陣が現場の皆さんと対話する機会があると思います。私たちも昨年まではタウンホールミーティングとしてやっていたのですが、オープンでフラットに対話をする場であるということをわかりやすくするために、「オープントーク」と名前を変えました。

 名前だけでなく、ミーティングの在り方も参加者主導で変えられるようにしています。とある部署のケースでは、CEOの佐野が参加する会を、たこ焼きパーティーをしながら開催し、カジュアルな雰囲気の中で質疑応答を行うことで、経営との距離感を縮める結果にもつながったと聞いています。「オープントーク」の場では、「佐野CEO」ではなく、「佐野さん」と呼ぶようにしています。

「オープントーク」の様子

――ブランディングとカルチャー醸成を通じて、dentsu Japanをどんな会社にしていきたいですか。今後の展望も含めて、最後にお聞かせください。

吉羽 活力あるカルチャーを醸成し、社会に活力を還元していくような会社に変わっていくことがベースにはあります。ただそれは、私の中では数年以内に実現できる、あるいは実現できていないといけないことだと思っています。

 さらにその先に、電通グループを世界から見ても「never before」な企業グループにしていきたいと思っています。

 今、私が見ている範囲はあくまでも日本事業、dentsu Japanなのですが、One dentsuとして世界の仲間ともつながり、ワンビジョンでのグローバル経営を掲げています。これが実現できれば、私たちの業界では珍しい、日本発のグローバル企業に進化を遂げることができると期待しています。

インタビューを終えて
Japan Innovation Review編集長 瀬木 友和

 以下、記事の本文でも触れたが、非常に印象的だったため、改めて詳しくしたためたい。

 インタビューの最後、私は吉羽氏に今後の個人的な目標を聞いてみた。すると、「こんなこと言っちゃって、誰かに怒られないかなぁ」と冗談めかしながらも、こんなことを語ってくれた。

「ものすごい先の話かもしれません。けど、必ず電通グループを世界から見ても“never before”な存在にしていきたいんです」

 どういうことか。

「世界中の仲間と、国や地域でまったく異なるカルチャーの壁を乗り越え、名実ともにパーパスでつながっていく。つまり、名実ともに“One dentsu”を実現することができれば、必ず日本発の本当の意味でのグローバル企業として胸を張っていける存在になれると思うんです。日本発の会社で、この業界でそんな会社はないですよね? 電通グループをそんな存在にすることが私のゴールです」

 確かに、自動車産業をはじめとしたものづくりの分野では、真のグローバル企業といえる日本発の企業は多数存在する。一方、BtoBのサービス業の分野で、本当の意味でのグローバル企業と呼べる存在を、私は寡聞にして知らない。

 そんな壮大な目標を、冗談めかしながらも満面の笑みで朗らかに語る吉羽氏の姿は、企業文化の変革を進めるdentsu Japanの新しいリーダー像そのものだ。

 BtoBのサービス業の分野で、日本発の真のグローバル企業が生まれる日はそう遠くはないかもしれない。そんな期待感に胸が躍らされたインタビューとなった。

 吉羽氏とdentsu Japanのnever beforeな挑戦に期待したい。

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