ウルスSEで何が変わったのか?

 話がだいぶ逸れてしまったが、ランボルギーニは自分たちの価値を守り続けるために、PHEV化の道を歩んでいるといって間違いない。以前、ヴィンケルマンは私に「ランボルギーニのすべてを守り通すために、ランボルギーニのすべてを変えていきます」と語ったが、エンジン車からPHEVへの移行は、まさにこの難しいタスクを実現するために採用された手法だったのである。そして時代にあわせて変容するブランド・ビジネスを考えるとき、ヴィンケルマンが語った「ランボルギーニのすべてを守り通すために、ランボルギーニのすべてを変えていきます」という言葉は、きわめて重要な意味を持っているように思う。

 では、この考え方にしたがってウルスがどのように生まれ変わったかといえば、基本的なボディ構造やエンジンは従来型の流用といって構わない。ここに、192ps/483Nmのモーターと容量25.7kWhのバッテリーを追加することで、800psのシステム出力と950Nmのシステムトルクを実現。従来型のウルスSを上回る0-100㎞/h加速(3.5秒→3.3秒)や最高速度(305km/h→312km/h)を達成している。

車重2.5トンオーバーに対して

 それでも、プラグインハイブリッド・システムの追加に伴う重量増はいかんともしがたく、車重は従来型より300kgほど重い2.5トン・オーバーに達している見込み。これでは、ランボルギーニらしいハンドリングは到底、実現できないように思える。

 そこで彼らがウルスSEに投入したのが、まったく新しい4WDシステムだった。

 4WDというと悪路を走るための技術と思われがちだが、前後のトルク配分を変化させればハンドリング特性を調整できることが知られている。そこでランボルギーニは、従来のメカニカル式4WDから電子制御式4WDへと一変。これと、彼らがこれまで培ってきた4WDの予測制御技術を組み合わせることで、従来のウルスを上回る軽快なハンドリングを実現したというのである。

 ここでいう予測技術とは、ステアリング、アクセルペダル、ブレーキペダルなどの操作により、ドライバーが次にどんな挙動を生み出そうとしているかをクルマ側が判断。これにあわせて前後のトルク配分やエアサスペンションの設定、トルクベクタリングなどの制御技術を駆使し、ときには豪快なドリフト走行を、そしてときには安定したハンドリングを維持し、思いのまま操れるハンドリング特性を生み出す技術のこと。なるほど、これはメカニカルな制御システムでは達成できないはずである。

 自動車の電動化は各ブランドの個性をスポイルしかねない難しい課題だ。しかし、そんな難しい課題に直面しているからこそ、ブランドの原点に立ち返り、自分たちに必要な変革を断行していかなければいけないともいえる。ヴィンケルマンは「ランボルギーニのすべてを守り通すために、ランボルギーニのすべてを変えていきます」と語ったが、私には、ブランドの真価を見失わないいっぽうで、変革のリスクを恐れないヴィンケルマンらの勇気ある経営判断こそが、ランボルギーニの成功を支えているように思えて仕方ない。

ランボルギーニ ウルスSEのプレビューは「ランボルギーニ・アリーナ」というイベントの一環として行われた。ウルスSE以外にも、クラシック ランボルギーニの試乗など盛りだくさんのイベントについては、大谷 達也氏のYouTubeチャンネル「The Luxe Car TV」で詳しく紹介されている