公道とサーキットにて新生・タイカンをテスト

 スペイン・セヴィリヤ地方で行われた国際試乗会では、公道でタイカン・ターボを、モンテブロンコというサーキットではタイカン・ターボGTのさらに高性能版であるタイカン・ターボGT ウィズ・ヴァイザッハ・パッケージ(以下、ヴァイザッハ・パッケージと表記)に試乗した。

後部座席も取り外している『ヴァイザッハ・パッケージ』は、ラグナセカで1分27秒87とニュルブルクリンク 北コースで7分07秒55のラップタイムを記録し、市販電気自動車の新記録を樹立

 まず、公道で乗ったタイカン・ターボは足回りがしなやかで乗り心地が快適だったほか、コーナリングでも自然な挙動を示して扱い易かった。ちなみに、デビュー当初のやや突っ張った印象の足回りから“しなやか”方向に方針転換したのは、2年ほど前に実施された年次改良に伴うもので、今回はその方針に従ってさらに改良された格好。いずれにせよ、人間が運転して気持ちいいと感じさせる味付けは、スポーツカーを長年作り続けてきたポルシェだからこそできるものだろう。

画像は通常モデルの『タイカン』

 この「ドライバー重視」の姿勢は、サーキットで試乗したヴァイザッハ・パッケージでも感じ取れた。ローンチコントロールを用いた発進加速では、全身の血が背中側に吸い寄せられるような猛烈な加速Gを感じたものの、ハードコーナーリングではタイヤのグリップ限界に到達する過程が実にわかりやすく、自信を持ってコーナーを攻めることができたからだ。

この試乗は大谷 達也氏のYouTubeチャンネル「The Luxe Car TV」でも詳しく紹介されている

 冒頭でも記したとおり、昨今は中国製EVを脅威と捉える向きが増えている。彼らが急速に力を付け始めているのは事実だろう。けれども、前述した「ドライバー重視」のクルマ作りは、単純な数字だけでは説明しきれない奥深いものであり、これを実現するには長年の経験がものをいう。そしてまた、現在のEVは移行期で、それゆえに新しいものに目を奪われがちになっているとも私は捉えている。

 したがって、10年、20年と時を経てくれば、EVもクルマとしての真価が問われる時代が再びやってくるはず。そしてそのときは、目新しいテクノロジーではなく、長年培った経験に基づくクルマ作りの思想が問われることになるはずだ。

 新しいタイカンに試乗して、ポルシェが自分たちの伝統とブランドを大切にしようとしていることがよく理解できた。きっと、これこそが新興勢力を打ち負かす際の、もっとも強力な武器となるのだろう。