世界、そして日本へと広がる抽象表現

 展覧会では引き続き、さらに発展、多様化していく抽象絵画の世界を追いかける。フランスの抽象芸術の新たな動向「アンフォルメル(不定形)」、アメリカの「抽象表現主義」などに加え、日本の「具体美術協会(具体)」や「実験工房」にもスポットを当てている。

 そんな中で、心に残った作品をいくつか。北京の銀行家の家に生まれながら、セザンヌやマティスに憧れ渡仏したザオ・ウーキー。《水に沈んだ都市》《無題》《13.10.59》など6点の作品が出品されている。彼は前衛芸術の動向を踏まえながらも、書、水墨画といったアジアの伝統を感じさせる作品を制作した。抽象絵画でありながら、心にやさしく、あたたかく響く。

 日本人では、草間彌生の2作品が素晴らしい。カンヴァス全体に細かな白い弧を描き込んだネット・ペインティング最初期の作品《Infinity Nets No.A》(1959年)、白地に赤い網目模様が広がる《無題(無限の網)》(1962年頃)。草間といえば原色やドット模様の作品が知られているが、50年代、60年代の草間作品には格別なものがある。鬼気迫る情熱が宿っているようで、作品の力に圧倒されてしまう。

ジャクソン・ポロック《ナンバー2、1951》1951年 石橋財団アーティゾン美術館

 アメリカの抽象表現主義コーナーも見ごたえある作品ばかり。ジャクソン・ポロックは5作品を展示。富山県美術館が所蔵する《無題》、国立西洋美術館所蔵(山村家より寄贈)の《ナンバー8、1951 黒い流れ》、そして石橋財団アーティゾン美術館が有する《ナンバー2、1951》。日本が所蔵するポロックの傑作が集まり、ひとつの見どころとなっている。

「ABSTRACTION 抽象絵画の覚醒と展開 セザンヌ、フォーヴィスム、キュビスムから現代へ」展示風景、リタ・アッカーマンの作品

 展覧会の最終セクションでは、7人の現代作家を紹介。アメリカのリタ・アッカーマン、中国の婁正綱(ろうせいこう)、鍵岡リグレ アンヌ、津上みゆき、柴田敏雄、髙畠依子、横溝美由紀。現在のみならず、未来を見据える意識を大切にするアーティゾン美術館らしい構成で展覧会は締めくくられる。