草創期を経て、いよいよ覚醒
印象派、フォーヴィスム、キュビスム。ここまでは、抽象絵画のいわば“下準備の時代”。展覧会はいよいよ本題に突入する。
セクション3「抽象絵画の覚醒」と題された展示セクションでは、フランスのオルフィスム、イタリアの未来派、ドイツの青騎士とバウハウスなど、ヨーロッパ各地で興った抽象絵画のムーブメントを紹介。抽象絵画を代表する画家としてドイツで活動したヴァシリー・カンディンスキーやオランダのピート・モンドリアンがよく知られているが、この展示セクションを見れば、多彩な作家やグループの活動があってこそ抽象絵画が花開いたことがよく分かる。
なかでもフランティセック・クプカは、本展のメインビジュアルにも選ばれた見逃せない画家。クプカは現在のチェコ出身で、ウィーンで絵画を学んだ後にパリに出てキュビスムの影響を受け、ロベール・ドローネーらとともに抽象絵画の制作に励んだ。《赤い背景のエチュード》は、具体的なモチーフを捨て去り、色彩と線描の美しさに重点を置いて制作した作品。展覧会の担当学芸員である新畑泰秀氏曰く、「抽象絵画の草創期を象徴する記念すべき一枚」だという。
青騎士のコーナーでは、カンディンスキー作品が目に留まる。風景を題材にした《3本の菩提樹》(1908年)、本格的に抽象絵画を始めた時期の作品《「E.R.キャンベルのための壁画 No.4」の習作(カーニバル・冬)》(1914年)、直線と曲線、円形、四角形、三角形などで構成された《自らが輝く》(1924年)と、制作年代が異なる3点が展示されている。カンディンスキーが抽象表現のためにどのような過程を経たのかが見えてくる。