遠近法の集大成《最後の晩餐》
この作品はレオナルドにとって遠近法の集大成といえる大作です。すべての線が中央消失点へと集束し、美しいシンメトリーとなっています。
1999年に修復が行われた際、画面中央のイエスのこめかみあたりに釘の跡があることがわかりました。ここが線遠近法の消失点になるよう、刺した釘から紐を引っ張って線を引いて制作し、作品に遠近感を出したのだろうといわれています。
「線遠近法」は「カメラアイ」ともいわれ、片方の目で見ればそう見えますが、両目で見ると少しカーブして見えます。絵画ではそこに数学的な操作がされているのです。絵画を製図のように数学的に秩序立てて考えるということも、ルネサンスの特徴のひとつでした。
絵画の中がいかに現実的に見えるのかが大切で、それは現実とは同じではないということを徹底的に表現したのがレオナルドでした。さらに製図では表現できない空気遠近法やスフマートという技法も同時に用いたところが、彼の凄さだと思います。
また、この壁画は高いところにあり、下から見上げると、本来は食卓の上は見えません。描く際に組んだ足場の高さからレオナルドが見たためという可能性もありますが、食堂の奥に座る修道院長の位置を意識して、わざと歪めた遠近法である「アナモルフォーズ(歪曲画)」を用いたとする説もあります。
床に置かれた絨毯のようなものが、見る角度を変えると骸骨に見えるという、ドイツの画家ホルバインの《大使たち》(1533年)が用いた遠近法です。そうだとすると、次の時代の遠近法をレオナルドは使っていることになります。アナモルフォーズのような絵は『アトランティコ手稿』と呼ばれる手稿にも残されています。