「ポップアップ・ストア」ではなく「特集」を
編集者的発想、「雑誌の3D化」ということでいえば、「EDISTORIAL STORE」では店舗を使って「特集」を組むのだそう。
「セレクトショップなんかでよくポップアップ・ストアというのがありますよね。あるブランドのポップアップ・ストアをやるのであれば、別注のアイテムを1、2型展開して、そのほかは通常取り扱っていないそのブランドの在庫を出してもらうというような。ショップ側が場所を貸して、ブランド側が商品を手配するこうしたポップアップ・ストアって大家と店子みたいなものであまりいい関係とは思えないんです。それから、そうしたポップアップはだいたいブランドで括ってやりますよね。
『EDISTORIAL STORE』でやるなら、そうではなくてポップアップ・ストアをより雑誌的な切り口で展開しようということで『特集』と捉えるようにしています。これも『雑誌の3D化』の重要な要素です。初回の特集は7月15日からの”ALL AMERICAN BOYS”。アメリカ製のものだけ集めるとかアメリカン・ブランドのアイテムに”ALL AMERICAN BOYS”と刺繍を入れる『マッシュ・アップ』のシリーズを作ったりだとか、これまでどこかでやっていそうでやっていない取り組みを行います」
特集は月に一回程度で変えてゆくというから、月刊誌と同じようなペースと考えていいだろう。また雑誌と同じように「第一特集」「第二特集」というような展開も考えているという。こうした取り組みは、小沢さんのキャリアがあればこそ成立するものではないだろうか。
上田にいるときは必ず店に出る
早いところだと6月の下旬あたりから春夏シーズンのセールをスタートするブランドやショップが少なくないが、「EDISTORIAL STORE」はそうした旧来的なファッション・ビジネスのサイクル(そのシーズンの商品の大部分をセール化して次のシーズンを迎えるという)とは異なる時間軸で運営されている。商品はすべて仕入れでまかなわれていることから、シーズン単位でなく常にセレクト業務が必要とされるのである。
「仕入れのタームはブランドやショップによってまちまちですね。年に一回のところもあれば3ヶ月に一度くらいのペースで覗かせてもらうところもあります」
取材を行ったすぐあとからしばらくは毎週仕入れ業務で出張というスケジュールなのだそう。
「朝5時に起きて支度して新幹線で東京に向かって、というこの感じはスタイリストのときの撮影と同じようなところがありますね。早朝にロケバスさんが迎えにきて、ロケ撮影をやってというような」
「EDISTORIAL STORE」は基本的に火曜日と水曜日が定休の週5日営業。小沢さんは定休日を使って前述の出張を行い、それ以外の日で上田にいるときは必ず店に出ているという。これまで決まった時間に決まったところへ出勤し勤務することのなかった小沢さんにとって、そのあたりは慣れるまで大変なのではと思ったが「意外とそれは大丈夫ですね。この店にずっといるのが心地いいという、ここをオープンするまでは思いもしなかった感覚になっています」
今後の「EDISTORIAL STORE」とファッション業界
「EDISTORIAL STORE」の開店準備に奔走している頃から取材を重ねてきたなかで、小沢さんの口から「スタイリストとしての活動をどうショップに反映させるか」ということが何度か出てきたが、オープンした店舗を実際に訪れると、ルックとして商品を見せることや商品に添えられたキャプション、来店者へのアドバイス、店舗を使った「特集」など、実に無理なくスタイリストのキャリアが生かされているように感じた。店の規模とも関係しているだろうが、自分の目の届く範囲で取り組んでいるからこそ、ブレがないのだろう。では、これから先のことを小沢さんはどのように考えているのだろうか。
「世の中の流れとしては、無駄なものは作らないとか捨てないとか燃やさないというのがあると思うんですが、それが完璧に実現されると僕がやっているこの店は続かなくなってしまいます。そういう意味では『微妙なことやってるなぁ』って自分でも思います(笑)。
とはいえ、古着屋さんがなくなっていないことを考えると、僕がやっているようなこともなくならないとは思うんですが、これから先は変化はあるのかもしれませんね。ファッションが嗜好性の高いものになってきているのと、自分がやっていることはニッチな取り組みだとも理解しているので、ビジネスとして拡大していこうというつもりはないのですが、自分がやっていることに常に意義を持ち続けていたい、というのはすごくありますね」
各ブランド、各社が在庫のスリム化や廃棄しないための取り組みを目標として掲げている現在。もちろんこれは大切なことなのだが、一方で「こう謳っておかないといけない」というような意識でやっているところも少なくないのではないだろうか。あるいはそうした宣言と実態との乖離があるというようなことも当然考えられるだろう。
これについては、「今までのように物が余り続けてしまうのはいいことではないですが、それが一足飛びに解消されるとは思えません。というのも、ブランドやショップがそう謳って取り組んだ場合、生地屋さんやパーツ屋さん、縫製工場などはどうなるのか、ということは見過ごされがちですが、当然そこも視野に入れる必要がありますよね。そういったところの変化も考えると、もう少し時間がかかるのではと思います。ファッションなので軽やかに解決できる方法を考えられるといいですよね」と小沢さん。
時代の趨勢ということよりも、個人的な疑問やスタイリストとしてのキャリアの次のステップを考えてゆくなかで立ち上がった「EDISTORIAL STORE」は、そのオープンまでの道のりで小沢さんの目の届く範囲でさまざまな問題解決のきっかけを作り、それを継続している。ファッションの楽しさを損なうことなく、むしろファッションとしての楽しさを引き出しながら行われるこの取り組みの今後に、一層興味が湧く取材であった。