本コンテンツは、2021年6月29日に開催されたJBpress主催「第4回 リテールDXフォーラム」のセッションⅡ「生体認証が創るこれからの新しいリテールのかたち」の内容を採録したものです。
富士通株式会社
ソーシャルデザイン事業本部 生体認証事業部 サービスビジネス部
平野 早紀氏
富士通株式会社
デジタルソリューション事業本部 Smart Retail事業部
鈴木 良氏
生体認証で変わるアフターコロナのリテールビジネス
コロナ禍によってクローズアップされた非接触、非対面での買い物へのニーズはアフターコロナでも残り、リテール業界には経済合理性を持ってそれに対応していくことが求められる。この課題の解決策として期待されているのが店舗の省人化・無人化であり、業界が抱える労働力不足という課題の解決にもつながる。どのような実現方法があるのだろうか。
非接触で認証できる手のひら静脈認証
新型コロナウイルスは私たちの日常を大きく変えた。「昨年5月に実施された調査では、約8割の人がものとの接触が気になるようになったと回答しています。その影響はリテール業界にも広がりました」と富士通株式会社 ソーシャルデザイン事業本部 生体認証事業部 サービスビジネス部の平野早紀氏は語る。労働力不足などに悩むリテール業界に、従業員の安心安全の確保、店内での接触機会の低減、店内滞留の回避といった新たな課題が加わったことになる。
こうした課題を解消する手段として注目されるのが、レジレス店舗による省人化・無人化だ。しかし、懸念もある。代表的なものは万引きや悪戯が増えるのではという不安だろう。売り場に人がいなくなることで、万引きなどに対する心理的な障壁が下がるからだ。
その抑止力として注目されているのが、生体認証による入店時の本人確認だ。生体認証とは、人間の身体的特徴や行動的特徴によって個人を識別し、認証する技術であり、顔や指紋、瞳の虹彩などの認証方式がある。その中でも富士通が注力しているのが、手のひらの静脈の特徴を使って個人を識別し認証する「手のひら静脈認証」である。
「生体認証は、認証方法により精度や推奨利用環境などが異なるため、用途によって最適な認証法を選択することが重要です」と平野氏は話す。手のひら静脈認証の特長は、体内情報を使うために他人に盗まれないという高い安全性、複雑な静脈の模様を読み取ることにより他人受入率を抑えることができる高い認証精度、そして手のひらをかざすだけの高い受容性、この3つである。
ただし、大規模な利用環境で素早く認証するためには工夫も必要になる。「推奨しているのは手のひら静脈認証と顔認証を組み合わせたマルチ生体認証です。この方法であれば100万人規模でも2秒以下で認証できます」と平野氏。最初に認証速度の速い顔認証で対象者を絞り込み、次に認証精度の高い手のひら静脈認証で本人を特定するという2段階の認証方法を取り入れることで、速度と精度を両立させることができる。
また、マスクを着用すると顔認証の精度が低下するというのがこれまでの常識だったが、同社では顔の情報に合成したマスクを着用した画像を生成して、それを学習データとして活用することで認識率を高める技術を開発した。認証エラーは1%以下になり、米国国立標準技術研究所のテストで国内ベンダー首位の成績を獲得している。
生体認証を活用したレジレス店舗の実現
セミナーでは、手のひら静脈認証を利用したレジレス決済の実証実験の様子が動画で紹介された。この実証実験は、ローソン富士通新川崎TSレジレス店で2020年2月26日から行われているもので、アメリカのスタートアップ企業のレジレスソリューション「Z
利用者はあらかじめ手のひら静脈のデータ、および決済情報を登録しておくだけで、スマホのQRコードなどを使うことなく買い物ができる。店内の棚から欲しいものを手に取って店の外に出ると、本人のスマホに電子レシートが送信される。
この実証実験を牽引してきた富士通株式会社 デジタルソリューション事業本部 Smart Retail事業部 シニアソリューションアーキテクトの鈴木良氏は「店内に設置したカメラの映像と、商品を取り上げた時の重量センサーのデータの増減によって買った商品を特定し、人と商品を紐付けて精算しています」とその仕組みを解説する。
「今、リテール業界は多くの課題を抱えています。厳しい競争環境の中で利益を確保しなければならず、人手不足での24時間対応の問題もあります。さらにコロナ禍によって省人化・無人化の要求も加わりました。こうした課題の解決にレジレス店舗が貢献できると考えています」(鈴木氏)。
レジレス店舗であれば、非対面ということだけでなく、店舗側の大きな負担になっているレジ業務が削減でき、狭いスペースでも出店できるというメリットももたらされる。これにより、高層マンションの中層階や、オフィスや工場、団地、テーマパークなどあらゆる場所に無人店舗を展開できるようになる。
さらにデータ活用という面でも効果的だ。システムによってデータ収集が自動化されるため、リアルタイムに販売状況を把握できる。このデータを分析することで、在庫管理や発注、店舗レイアウトや商品配置の自動化・最適化を図ることができる。また、本人を特定しているため防犯対策にもなる。
利用者には新たな購買体験を提供することができる。「実証実験を行っているレジレス店舗では、レジ待ちやスマホの出し入れがなくなったことで、従来の店舗より待ち時間が90%も減りました。あって当たり前のスマホでさえ、ストレスの要因になっているのかも知れません」と鈴木氏は生体認証の利用が新たなライフスタイルの創出につながる可能性を示唆する。
様々な分野に広がる生体認証の利活用
生体認証によって本人を特定するということは、IDの代替にもなる。富士通では生体情報を生年月日と紐づけることで、生体認証を用いた年齢確認のできる技術を開発。現在特許出願中だ。この技術の活用が進むと、無人店舗でもアルコール飲料や煙草などの販売が可能になる世界が来るかもしれない。鈴木氏は「生体認証によってお買い物体験を変えるだけでなく、見えないバリアをなくすことができます」と語る。
実際にそんな生体認証の活用は、企業内での利用やコンシューマー向けサービスへの適用など様々なシーンで進んでいる。セミナーではその代表的な事例が紹介された。
マレーシアのマクドナルドでは、勤怠管理のための打刻に手のひら静脈認証を導入している。不正打刻の防止だけでなく、打刻カードが不要になったことで、コスト削減も実現。さらに作業員の行動が把握できるようになり、効率的な人員配置も可能になった。
王将フードサービスでは、工場の入退室管理に手のひら静脈認証を導入し、マスクや帽子を着用したままで本人識別を行っている。工場のエリアごとに認証装置を複数台設置し、きめ細かな入退室管理を行うことで、食の安全の確保と人為的な事故の回避につなげている。
小売業のA社では、レジ操作者の認証に手のひら静脈認証を採用。指先の汚れや荒れ、汗や乾燥に影響されることなく認証が可能で、従来の指紋認証と比べると認証時間が3分の1に短縮され、作業効率が向上した。
コンシューマー向けでの活用事例も紹介された。病院内でコンビニやレストランを運営する光洋ショップ-プラスでは、一般向けのコンビニとしては初めて生体認証によるレジレス店舗の実験をスタートさせている。
他にも富士通では、ロッカーメーカーとの協業による物理的な鍵やスマホのいらない、手のひらをかざすだけで開く手のひら静脈認証ロッカーの開発や、無人販売機メーカーとの協業による手のひら静脈認証で物品を購入できる無人販売機の開発など、幅広い分野で生体認証を活用した協業を進めている。
鈴木氏は「生体認証でつながる世界を広げるには、多くの企業様との共創が必要です。一緒に日本発の技術で世界を変えていきましょう」と幅広くパートナーを募っていることを強調した。富士通には、そのためのパートナープログラムも用意されている。DX時代の新たなビジネス展開の切り口として生体認証の活用を検討してみてはどうだろうか。
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