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 なぜあの会社は儲かるのか?答えは決算書の中に隠されている――。本連載は、注目企業の「稼ぎ方」「儲けのしくみ」を決算書から読み解く話題書決算書×ビジネスモデル大全』(矢部謙介著/東洋経済新報社)から、内容の一部を抜粋・再編集。100円ショップ、飲料メーカーなど、同業でも企業によって大きく異なるビジネスモデルの特徴を、わかりやすく図解する。

 第2回目は、原価率、卸売比率、仕入れ価格、販管費率など、100円ショップ業界のセリアとワッツのビジネスモデルの違いをさらに詳しく掘り下げる。

<連載ラインアップ>
第1回 100円ショップのセリアの収益性は、なぜワッツよりも高いのか?
■第2回 100円ショップのセリアVS.ワッツ、原価率や販管費率が低いのはどちら?(本稿)
第3回 アサヒ、キリン、サッポロ、ビール各社の戦略はどこが大きく違うのか?
第4回 恵比寿ガーデンプレイスに見る、サッポロホールディングスの事業の特徴とは?
第5回 富士フイルムHDの利益率は、なぜニコンよりも高いのか?
第6回 富士フイルムHDの古森元CEOが断行した「事業構造改革」と「第二の創業」とは

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■セリアの原価率が低い3つの理由

 セリアの収益性が高い理由を、まずは原価率から探っていきましょう。

 ワッツの原価率が61%であるのに対し、セリアでは57%となっており、セリアの原価率のほうが低くなっています。100円ショップの商品販売単価はほとんどが100円であることを考えると、原価率を引き下げるには商品の仕入単価を下げるしかありません。

 原価率をもとに単純計算すると、ワッツの商品仕入単価は61円であるのに対し、セリアでは57円で仕入れることができているといえます。言い換えれば、セリアでは商品を1点販売すると43円の粗利益(=売上高-売上原価)を上げられるのに対し、ワッツでは39円の粗利益にとどまることになります。粗利益の数字で見るとわずかな差に見えるかもしれませんが、商品販売単価が低い100円ショップにとってこの差は大きいのです。

 セリアのほうが大きな粗利益を上げられている理由は3つあると推測されます。

① セリアの売上高に占める食品の割合が低いこと
② セリアの卸売比率が低く、直営店での売上割合が高いこと
③ セリアの事業規模が大きく、仕入れなどにおいてスケールメリットが働くこと

 1つ目に、セリアの売上高に占める食品の割合が低いことが挙げられます。セリアの有価証券報告書によれば、セリアの売上高に占める菓子食品の割合は、2006年3月期に17%だったものが、2021年3月期には2%まで低下しています。それに対し、ワッツにおける食品の割合は6%(2021年4月28日付日本ベル投資研究所IRアナリストレポート)とされており、セリアに比べるとやや高い水準です。

 セリアにおける2021年3月期の有価証券報告書における仕入実績と販売実績から、商品区分別の原価率を簡易的に試算してみると、雑貨が57%であるのに対し、菓子食品では75%と高くなっています。したがって、100円ショップの原価率を引き下げる上では、食品の割合は低いほうが有利になります。雑貨の商品力を高めるとともに、食品の売り上げ割合を引き下げてきたことが、セリアの高い収益性に結びついているといえそうです。

 2つ目の理由は、セリアの卸売比率が低く、直営店での売り上げの割合が高いことが挙げられます。FC店などへの卸売りの場合、原価率が高くなる(粗利益率が低くなる)ため、直営店での売り上げの割合が高いほうが全体の原価率が低くなります

 売上高に占める直営店比率は、ワッツでは87%であるのに対し、セリアでは98%と高くなっていることから、セリアの原価率を引き下げる方向に働いていると推測されます。

 3つ目の理由は、仕入れにおけるスケールメリットの存在です。ワッツの2021年8月期の売上高が507億300万円であるのに対し、セリアの2021年3月期の売上高は2006億8200万円と約4倍の規模となっています。

 商品の仕入れにあたっては仕入れの量が大きいほどディスカウントが利くことから、セリアの売上高の規模が大きいことも、原価率を引き下げることに貢献していると考えられます。