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 デジタイゼーション、デジタライゼーションを経てデジタル化の最終目標となるデジタルトランスフォーメーション(DX)。多くの企業にとって、そこへ到達するためのルート、各プロセスで求められる施策を把握できれば、より戦略的に、そして着実に変革を推し進められるはずだ。  

 本連載では、『世界のDXはどこまで進んでいるか』(新潮新書)の著者・雨宮寛二氏が、国内の先進企業の事例を中心に、時に海外の事例も交えながら、ビジネスのデジタル化とDXの最前線について解説する。第6回は、JR東日本グループがグループ経営ビジョンとして掲げた「変革2027」と、その実現に向けたDXの取り組みについて解説する。  

<連載ラインアップ>
第1回 「やってみなはれ」、サントリーが挑むDXと新浪社長が目指す生成AIの活用とは
第2回 ファストリ、デジタル化でサプライチェーンを“完全可視化”する本当の狙い
第3回 AIとデータ活用で何を実現?リクルートが目指す新たなビジネスモデルの真価
第4回  イオン、ライオン、楽天、先進企業が推進するデジタルを駆使した物流改革
第5回  デジタルで顧客向けサービスを統合、MUFGが目指す「一人別提案」への道筋
■第6回  約3万人がデジタル人材として進化中、JR東日本のDX推進の中身とは?(本稿)

■第7回  日立が取り組むDXの真髄~協創による知識創造とは(仮題)
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「変革2027」で目指す“価値創造ストーリー”の実現

 JR東日本グループ(JR東)は、2018年にグループ経営ビジョンとして、「変革2027」を掲げています。これは、従来の「鉄道のインフラ等を起点としたサービス提供」から、「ヒト(すべての人)の生活における『豊かさ』を起点とした社会への新たな価値の提供」へと“価値創造ストーリー”を転換していくことを基本方針としています。

 この中でうたわれている“価値創造ストーリー”を実現するために、JR東は、全社員がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組めるよう、近年、環境の整備に着手しその動きを加速化させています。

 DX推進のための環境の整備は、これまで、「運営体制」「組織体制」「人材育成」の3つの視座から進められてきました。

 第1の視座である運営体制については、「変革2027」が掲げられる前年の2017年に発足させた「モビリティ変革コンソーシアム(MIC)」が起点となっています。

 MICは、解決が難しい社会課題や次世代の公共交通について、交通事業者、国内外の企業、大学・研究機関などがつながりを創出して、オープンイノベーションによりモビリティ変革を実現する「場」としての役割を担ってきました。

 5年間の活動の中で、未来の移動や先進技術を起点としたワーキンググループ(WG)を立ち上げ、33の具体的テーマを抽出し、テーマごとに調査、実証、提言を行い、グループ外を含め最大160以上の団体が参画しています。

 このMICの知見を生かして、2023年4月には、新たに「WaaS(Well-being as a Service)共創コンソーシアム(WCC)」を立ち上げ、活動を開始しています。

 WCCは、「ウェルビーイングな(身体的にも精神的にも満たされた)社会を実現すること」を最大のテーマとして、人と社会の両面からウェルビーイングを追求し、移動×空間価値の向上を目指しています。

 具体的には、線路などの鉄道インフラや地元に密着した駅など、JR東が保有する資産を活用して、さまざまな実証活動を行っています。ここで注目すべきは、JR東が「場」を提供するプラットフォーマーに徹していることです。

 テーマごとのPoC(概念実証)の予算や設備は会員の持ち寄りとしています。そのため、そこで社会課題を解決する先進サービスが実現されたとしても、その事業はあくまでも会員に拡大してもらい、JR東は成果を独占しません。よって会員に自由度と柔軟性を持たせることが可能となり、“共創の場”として実証や提言が生まれやすくなっているのです。