東急取締役社長の堀江正博氏(撮影:内海裕之)

 鉄道事業をはじめ、オフィス賃貸や住宅分譲、百貨店、スーパー、ホテルなど多様な業態を擁する東急グループ。その中核を担う事業持ち株会社の東急は、2024年3月25日、2024~2026年度までの「中期3か年経営計画」を発表した。グループの新たな成長に向けてどんな事業構想を描いているのか、堀江正博社長へのインタビューの模様を2回にわたってお届けする。前編では財務戦略、グループ戦略の考え方を中心に今後3年の基本方針について話を聞いた。(前編/全2回)

<ラインナップ>
【前編】「人口誘致に真正面から取り組む」東急・堀江正博社長が語る“コングロマリットの真価”(本稿)
【後編】渋谷再開発のゴールは?東急が取り組む「イノベーティブなまちづくり」の仕掛け

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「人口誘致にもっと貪欲にならなければいけない」

――2024年度から始まる「中期3か年経営計画」を発表しましたが、策定の過程で社内ではどんな議論をしてきましたか。

堀江 正博/東急取締役社長

1961年生まれ。1984年4月東京急行電鉄(現東急)に入社。鉄道現業を経て、多摩田園都市の開発現場に配属。その後海外事業部へ異動、1989年から海外ホテル子会社に出向。帰国後は投融資、社債調達担当やグループ会社の再建再編にあたる。2001年に自ら設立した資産運用会社に出向、2003年には東急リアルエステート投資法人の代表を務める。2015年5月東京急行電鉄(現東急)執行役員 リテール事業部長、2016年6月取締役執行役員、2020年4月取締役執行役員 ビル運営事業部長、2020年6月常務執行役員、2022年6月取締役常務執行役員を経て、2023年6月より現職。
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好きな言葉または座右の銘:「人間至る所に青山あり」、「一隅を照らす」
尊敬する経営者:五島昇/東京急行電鉄(現東急)元会長
変革リーダーにお薦めの書籍:『事業を生かす人』(五島慶太著)、『私鉄経営に学ぶ』、『すべての仕事はクリエイティブディレクションである』(古川裕也著)

堀江正博氏(以下敬称略) 私どもはまちづくりを中心に事業を手掛けていますが、鉄道やバス、ホテルなど人流に関わるビジネスはコロナ禍の3年で相当傷みました。そこから次の3年、あるいはその先に向けてどう走っていくかという議論からスタートしました。今はインフレや異次元の金融緩和政策が終了していくタイミングも見ながら、財務の健全性にも一層、目を配る必要性を感じています。

 特に利回りに対しての意識付けは大切です。さまざまな事業は減価償却費を差し引いた上で営業利益が計上され、そこから利払いをしていきますので、私どもの総資産に対して各事業の営業利益がどのくらいあり、総資産に対して何パーセントの利益があるのか、ROA(総資産利益率)やROE(株主資本利益率)についての意識をより強く持つべきだと考えています。

 そうした考えから、中期経営計画のトップメッセージでは「資本効率向上と財務健全性の両立」と「株主資本コストを強く意識した経営」の2点を強調しました。特に前者はそう簡単なことではありませんので、経営のかじ取りは難しくなると思いますが、やり切っていきたいと思います。

東急「中期3か年経営計画(2024年度─2026年度)」より
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――人口減少社会が加速していく中で、私鉄各社は今後も沿線人口の縮小が避けられません。

堀江 中期経営計画を策定する際の前提として、人口誘致に真正面から取り組んでいこうという点も議論してきました。よく、人口が減るから国内の事業より海外市場の開拓が活路になると言われますが、首都圏エリアではいまだに人口流入が進んでいます。

 東急線沿線もおかげさまで2040年頃までは人口が増えるという試算もあります。人が集まれば、さまざまなディスカッションを経て新しいアイデアや事業が生まれます。ある統計データによれば、人口集積と賃金の関係には正の関係があるようです。つまり、人口が集積する中でクリエイティブに産業が生まれ、より高い賃金が支払えるという好循環です。

田園都市線2020系

 そのため、人口誘致に向けた努力は今以上に必要になってきます。居住人口、交流・関係人口、中でもインバウンドのような訪問人口を包括的に増やすことが、結果的に私どもの既存の事業ポートフォリオにとってプラスになります。

 逆に、沿線人口が流出に転じたらその分ビジネスチャンスが減っていくことになりますから、人口誘致に対してもっと貪欲にならなければいけません。もちろん将来に向けた布石として海外事業も着実に進めていく考えですが、当社グループではバランスシートの7割以上を再開発中の渋谷エリアと沿線の開発に投資していますので、沿線への人口誘致の強化はいわば一丁目一番地とも言えます。