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 働き方や価値観が多様化する現在、リーダーのあり方が問い直されている。そんな中、アップルやナイキ、アウディといったグローバル企業で導入されているのが「牧場研修」だ。世界のビジネスエリートは、なぜ自然に学ぶのか? そこで培われるリーダーシップやビジネススキルとは? 本連載は、各国の牧場研修に参加し、スタンフォード大学で斯界の世界的権威に学んだ小日向素子氏の著作『ナチュラル・リーダーシップの教科書』(小日向素子著/あさ出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第3回は、ナチュラルリーダーシップを身につける第一歩としての「アンラーニング」について解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 馬の群れが教えてくれる、多様性時代のしなやかな「リーダーシップ」とは?
第2回 女性リーダー比率30%超の資生堂は、なぜ「牧場研修」を導入したのか?
■第3回 50代経営者が猛省、牧場研修で気づかされた「指示出し」の問題点とは?(本稿)
第4回 なぜリーダーは「自分以外の存在を感じられる力」を身に付けるべきなのか?
■第5回 何をやっても無反応、馬を操れない研修参加者はどう窮地を乗り越えたか?(5月22日公開)

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アンラーニングは新たな「伸びしろ」との出会い

 「ナチュラル・リーダーシップ」を身につける第一歩は、既存の価値観から自由になること、つまり、「アンラーニング」の習慣を身につけることです。

 アンラーニングとは、これまで身につけてきた知識や思考、習慣、スキルなどから、必要なくなったものをいったん手放し、代わりに、新たに学び直しを行うことです。

 まずは、無意識に抱いていた固定観念を自覚し、それらを手放すことから始めます。「若い人はやる気がない」「リーダーは自信にあふれていなければならない」といった決めつけや思い込みを、一時的に脇に置くのです。

 すると、必然的にゼロベースで課題と向き合うことになり、それまで考えもしなかった新たな視点が生まれてきます。

 その後は必要に応じて、脇に置いていた「過去の認識」も混ぜ込み、整理し直します。過去の学びを全面的に否定せず、場合によっては活用することも、アンラーニングでは大切です。

 例えば、「今まで仕事がうまくいっていたのに、配置換えで環境が変わってしまい、居心地がよくない。これからどうすればいいのだろう」という悩みを抱えていたとします。中堅のビジネスパーソンにはありがちな悩みです。

 このようなケースでは、次の思い込みを脇に置いてみます。

  • これまでの環境が最適だった。
  • これまでの自分は順調だった。

 すると、「そもそも自分にとっての最適とは何だろう?」「自分は順調だと思っていたけれど、実はハッピーではなかったかも?」「これまでは自分の長所を活かせるシーンが少なかったのではないか?」などと、思わぬ問いが生まれます。

 このような問いを深堀りしていくと、予測していなかった解決方法や選択肢、新たな「伸びしろ」が見つかるものです。突き詰めて考えた結果、「やはり、これまでの環境が最適だった」「これまでの自分は順調だった」と、再認識する可能性もあるでしょう。

 その場合は、無理して否定する必要はありません。「過去の認識」が正しかったということですから、もう一度混ぜ直せばいいのです。

 結論が同じであっても、深く考えた結果であれば、確信を持って行動できるようになります。「どうすれば新たな環境を最適にすることができるのか?」と考えるきっかけにもなるはずです。

 いずれにしても、リーダーが覚悟と勇気を持ってアンラーニングに臨めば、その姿は周囲に大きなインパクトを与えます。

 リーダーの学び直しそのものが、部下たちに有益な影響を与え、学びの連鎖を起こしてくれます。やがては社外の関係者にも影響し、社会へのよきインパクトにもなるでしょう。