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解放型リーダーは、自らが率いることを嫌う。

「自由と秩序」の両立によって機能不全から蘇り、飛躍の途へ――。そんな理想を体現した企業が世界には存在する。ルールによる抑圧的な管理を放棄し、人と組織を解き放った革新的なリーダーたちは、何を憂い、何を断行したのか?  本連載では、組織変革に成功したイノベーターたちの試行錯誤と経営哲学に迫った『フリーダム・インク――「自由な組織」成功と失敗の本質』(アイザーク・ゲッツ、ブライアン・M・カーニー著/英治出版)から、内容の一部を抜粋・再編集。

 第6回は、企業の解放を始めるにあたってのポイントと、解放を主導するリーダーのあるべき姿を解説する。

<連載ラインアップ>
第1回 松下幸之助が40年前に喝破していた「科学的管理法」の弊害とは?
第2回 金属部品メーカーFAVIの新しいCEOが目指した「WHY企業」とは?
第3回 夜間清掃員が社用車を無断使用した“真っ当な理由”とは?
第4回 13年連続赤字の米エイビス、新社長はなぜ経営陣を現場業務に就かせたのか?
第5回 利益率9%を誇る清掃会社SOLには、なぜ「清掃員」が存在しないのか?
■第6回 なぜ経営トップは、5年以上職にとどまってはならないのか?(本稿)

【特別寄稿】『フリーダム・インク』ゲッツ教授が解説、ゴアがデュポンより多くのイノベーションを生み出す理由(前編)
■【特別寄稿】『フリーダム・インク』ゲッツ教授が解説、ゴアがデュポンより多くのイノベーションを生み出す理由(後編)(5月21日公開)

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■組織を解放する哲学とリーダーシップ6

 解放企業を支える哲学には定形のモデルはないと思われる。実際、専門性やセクターや地域など、その組織が置かれるさまざまな文化的文脈に沿った方法で社員のニーズに応えようとすれば、その社員たちこそが、自社らしい適切な組織モデルをデザインする方法を知っているからだ。

 だからこそ、企業の解放を始めるにあたっては、まず会社の中で実現したい価値観やルールについて社員に尋ねるべきなのだ。答えは企業ごとに異なるだろう。なぜなら、たとえば「本質的な平等へのニーズ」を表現する価値観は、「敬意」「信頼」「善意」「傾聴」「よきユーモア」「公平性」などさまざまに存在するからだ。

 こうした価値観に全員の同意が得られたら、次のような問いを考えてみよう。

 「私たちの価値観に反しているため、これから取り除くべき慣行や象徴は何か。そして価値観を促進するために採用すべき慣行や象徴(シンボル)は何か」

 こうして会社ごとに独特の文化的文脈を反映する多様な組織形態が出現する。

 たとえば、フィンランドの解放企業で清掃サービスを提供しているSOLの全社を貫く唯一の価値観は、「CEOも含めた社員の誰にも、個人のオフィスや社用車、専用駐車場、ビジネスクラスといった『特権』がない」というものだ。しかし、リチャーズ・グループ(アメリカ最大の非上場広告会社)では、同じ平等主義的な価値観ではあるが、社歴の長い社員向けに専用駐車場と景色のよい席が用意されている。

6. Isaac Getz, “L’entreprise libérée est une question de philosophie, ses créateurs des antibureaucrates,” LeMonde.fr, June 5, 2015. http://www.lemonde.fr/emploi/article/2015/06/04/l-entrepr ise-liberee-est-une-question-de-philosophie-ses-createurs-des-anti-
bureaucrates_4647696_1698637.html.