自分の秘めた可能性を引き出すクライミング

2024年10月6日、スポーツクライミングリードW杯最終戦、ソウル大会、女子決勝での森秋彩 写真=REX/アフロ

 クライミングを通して自分と向き合う時間の中で知ることが多い。

「今日の体調とかもそうですし、精神面の不安定性とかは登りに出てきます。ちょっと疲れているのかなとか、ストレス溜まっているなとか。楽しめるときは自分の心が上に向いて頑張れているなとか、メンタル面の指標としても体の動きとかで感じられるので、やっぱり自分には合っていると思います」

 かけがえのない存在だからこそ、原点でもある「楽しいから登る」こと、「より高くまで登りたい」という思いを大切にしたいと考える。それがプロというあり方をとらなかった理由につながっている。

「正直、何の取り柄もなかったんですけど、クライミングが自分の身体に秘める可能性を引き出してくれたり、人生を彩ってくれる出会いをもたらしてくれました」

 と、その存在の大きさを表す森は、小学生から打ち込んでくる中で、クライミングの持つ幅広い魅力も感じている。

「単純に登ることが楽しいということと、あとは走るとか泳ぐとかと違って、親御さんよりもお子さんの方が登れたり、筋力のある男性よりも華奢な女性の方が登れたり、そういう逆転現象が起こるのも面白いです。『自分にはそういう握力がないから、力がないから』と言う人がいるんですけれど、やってみたら案外登れたりもしますし、子どもならほんとうに3歳くらいからできる課題もあります」

 だから、クライミングの魅力を知る人がもっと多くなれば、とも思う。

「クライミングに出会うことで、よりその人の人生が豊かになったらすごくうれしいことなので、私がクライミングの魅力を発信することで気づく人が増えてくれたらいいな、と思います。やるだけでなくクライミングには見る魅力もあります。選手によって体格や身長、スタイルも全然違うので、攻略法に違いがあってその人の個性がすごい出ます。私はリード競技は限界まで絞り出しているので、そういったところで誰かの背中を押せたらうれしいです。

 今、多様性への理解が深まっている社会で、男女問わず、年齢も問わずみんなが平等の条件で戦えるというのがやっぱりクライミングの魅力だし、それを見てもらうことで社会への貢献の効果もあるかなと思うので、クライミング界の発展だけじゃなくて社会的なスポーツとして意味があるんじゃないかなと思っています」

 森は「唯一無二のクライマーになりたい」と言う。

「けっこうほかの人からも、『秋彩ちゃんだけ違うムーブしてたよ』とか『あのムーブすごかったね』と言ってもらえるので、枠にとらわれない登り方ができるクライマーでありたいと思います。生き様という点でも、プロ一本でやるのではなく、一つの要素としてクライミングがあるという感じでそれだけに執着しないというのも私のスタイルだし、誰とも被らない人生の歩み方をするクライマーとして生きていきたいなと思っています」

 自身の確固とした信念と考えとともに、世界にただ一人、クライマー「森秋彩」としての道を歩み続けていく。