大河ドラマ『光る君へ』第36回「待ち望まれた日」では、まひろ(紫式部)は藤原道長から、中宮彰子の出産の記録を依頼された。紫式部も『紫式部日記』に、彰子の出産の様子を詳しく綴っている。そこで、今回は『紫式部日記』を取り上げたい。

文=鷹橋 忍 

石山寺の紫式部像 写真=Batsuamaru_Photo/イメージマート

『紫式部日記』は宮仕えの回顧録

『紫式部日記』は、見上愛が演じる中宮彰子(塩野瑛久が演じる一条天皇の中宮/藤原道長と黒木華が演じる源倫子の娘)に出仕した紫式部が記した、宮仕えの回顧録である。寛弘5年(1008)秋から寛弘7年(1010)正月15日までが描かれた。

 皇族を含む男性貴族の日記は変体漢文(和風の漢文)で記録されたが、『紫式部日記』は仮名で記されている。

『紫式部日記』には、紫式部の主人・中宮彰子の出産や、皇子誕生後の祝儀・賀宴の様子を中心に、宮中の女房としての生活などの他、ファーストサマーウイカが演じる清少納言(ドラマでは「ききょう」)や泉里香が演じる和泉式部(ドラマでは「あかね」)および、凰稀かなめが演じる赤染衛門を批評した有名な「三才女批評」や、紫式部の弟・高杉真宙が演じる藤原惟規よりも早く漢籍を覚え、「おまえが男でないのが、私の不幸だ」と岸谷五朗が演じる父・藤原為時を嘆かせたという少女時代の回想など、様々な記述が見られ、当時の貴人の出産、儀式、装束の様子や、紫式部を知るうえでの貴重な記録となっている。

 

不思議な構成

『紫式部日記』は、以下のように、記録的部分の間に、誰かに宛てた消息文(手紙文)的な部分と、年次不明の断片的な記事の部分が入り込むという不思議な構成をもつ。

①【寛弘5年(1008)秋から翌寛弘6年(1009)正月3日までの記録的部分】

②【消息文(手紙文)的部分】

③【年次不明の断続的記事の部分】

④【寛弘7年正月1日から正月15日までの記録的部分】

 ①から④まで、順を追って見ていきたい。