女形の様式美、侠客が主人公の世話物。スマホアプリで字幕表示も

「文楽鑑賞教室」と「社会人のための文楽鑑賞教室」の内容は同じ。「社会人の~」は午後6時開演なので、仕事帰りの観劇にもちょうどいい。 画像=国立劇場
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 今回の文楽鑑賞教室/社会人のための文楽鑑賞教室は約2時間15分と、上演時間も一般的な演劇公演とそれほど変わらない。演目は『伊達娘恋緋鹿子(だてむすめこいのひがのこ)』火の見櫓(ひのみやぐら)の段に続き、『解説 文楽の魅力』、そして『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』釣船三婦内(つりぶねさぶうち)の段・長町裏(ながまちうら)の段。

 見どころがぎゅっと詰まった人気演目2本に解説という構成は、文楽を初めて見る方にもぴったりだ(*配役によってAプロ、Bプロ、Cプロとなる)。

『伊達娘〜』は恋する乙女、八百屋お七が主人公。雪が舞うなか、艶やかな衣裳のお七が閉じられた木戸を開こうと、必死に火の見櫓によじ登り半鐘を打つ。お七が梯子を登るさまを、人形遣いが姿を見せず操るところが見もの。華やかな舞踊劇だ。

 解説は、Aプロ&Bプロでは人形遣い、Cプロは太夫と三味線が担当。文楽についてわかりやすく教えてくれる。

『夏祭〜』は大阪らしい夏芝居の代表作。今の難波に近いところで実際に起こった殺人事件を題材にしている。うだるような暑さと祭りの熱気がまといつく宵闇のなか、主人公の団七九郎兵衛(だんしちくろべえ)が強欲な舅(しゅうと)・義平次(ぎへいじ)を思わず手にかけてしまう長町裏の段。団七と義平次を2人の太夫が掛け合いで語り、丁々発止のやりとりに息を呑む。

 凄惨な殺しの後の静寂に賑やかな祭囃子が被さる演出など、思わず「うーん、うまい」と感服してしまう人気演目だ。団七の人形は手足が長く、それを不自然に見せないように遣うことで、人形ならではの動きの面白さが出るという。

『伊達娘〜』は女形の様式美、『夏祭〜』は侠客(きょうかく)を主人公とした世話物と、文楽の多彩な魅力に触れることのできるバランスのいいプログラム。いずれの山場も夜のシーンで、新国小劇場の「黒い」空間が活きるのではないか。

 昔の言葉で難しそう、と思われた方もご安心を。この公演では字幕アプリが用意されており、手持ちのスマートフォンにアプリをダウンロードしておけば、舞台進行に合わせて自動的に字幕が表示される。

 ちなみに同時期、新国立劇場の中劇場では歌舞伎名作入門『夏祭浪花鑑』を上演(9月1日~25日)。同じストーリーをどう表現するのか、文楽との違いを見比べてみるのも面白い。