民話や伝承を題材にした幻想的な作品群
こうした風景画に加え、北欧の絵画には民話やおとぎ話、北欧神話、フィンランドの民族叙事詩『カレワラ』を題材にした作品が目立つ。こうした物語の舞台の多くは森。深い森では魔法や呪いが効力をもち、人や動物ではない「何か」が棲みついているという。
ノルウェーの国民的画家テオドール・キッテルセンは、民話のエッセンスを盛り込んだ物語『ソリア・モリア城―アスケラッドの冒険』を創作した。少年アスケラッドが城を目指して冒険に出るストーリー。キッテルセンは12点の絵画を制作し、1911年に絵本として出版した。本展では、城で囚われている姫が眠ったトロルの体からシラミを取る場面を描いた《トロルのシラミ取りをする姫》など、3点の絵画が展示されている。
装飾芸術家として名高いガーラル・ムンテもまた、トロルから姫を救う作品を制作している。《帰還するオースムンと姫》は、モチーフを平面的に描いた壁画調の画風がユニークだ。
フーゴ・シンベリ《素晴らしい花》は、記者が本展で最も気に入った作品。2人の若者が描かれており、純白の襟がついた上品な服を着た裕福な青年は野に咲く花をハサミで切り落とそうとしている。質素な服装に裸足のもう一人の青年は、その様子を悲しげな表情でじっと見つめている。富裕と貧困を対立させた教育的絵画といえるが、そこに“説教臭さ”のようなものは感じない。ごく日常的な草原の一コマのように、さらりと描かれているのがいい。アンリ・ルソーを連想させる素朴であたたかみのある画風がそう思わせるのかもしれない。
北欧の絵は“冷たくあたたかい”
北欧の絵画には、一見、人を寄せ付けないような冷たさを感じる作品もある。でも、見ているうちに、あたたかで幸せな気持ちになってくる。それは、IKEAの家具と通じるような気がする。無駄をそぎ落とし、シンプルで万人の部屋に合うように作られた家具。でも、なんだか不思議とあたたかい。だから、世界中にファンがいるのだろう。
展覧会の最後はエドヴァルド・ムンク《ベランダにて》で締められている。ベランダから色彩豊かな景色を眺める2人の女性の後ろ姿。心地いい余韻が残る展覧会だった。