あらためて感じる「強さ」

 迎えた今回の世界選手権は4位で終えた。でも「苦しかった方が」というこの2シーズンを思い起こすとき、あらためて感じるのは宇野の強さだ。

 ある意味何も考えずに成長を、向上を志した時期を過ぎ、やることをなしたとき、どんなアスリートも達成感や充足感を抱く。それまでのように競技に取り組むモチベーションにも苦しむ。かつては「燃え尽き症候群」と言われることもしばしばあった。そこで競技を退く選手は少なくないし、続行を決意してもモチベーションを戻すのは容易ではない。パフォーマンスが上がらない状態であることも多い。

 宇野もまた、2021-2022シーズンののち、特に今シーズンはどう進めばよいか逡巡があった。競技者として進むのかそうではない形をとるのかも考えただろう。

 でも、この2シーズン、氷上で見せたのは成長し続ける姿だった。高難度のジャンプ構成を継続し、あるいは今シーズン意識してきた表現を高める努力を続けた。ジャンプで言うなら、世界選手権ショートプログラム冒頭の4回転フリップはその歩みの象徴のようだった。

 そしてショート、フリー双方のプログラムで見せた演技は、指先や目線に至るまで進化のあとを遂げた。ジャンプの回転不足をひときわ厳しくとられたNHK杯のフリーは、それを消し去るほどプログラムの世界に誘った。

 葛藤や苦しみがあっても足を止めず進化を続けたことに、宇野の強さがある。

 氷上の姿ばかりではない。全日本選手権で直前の滑走者山本草太の会心の演技を心から称えたように、拍手をおくることを惜しまなかった。世界選手権でも優勝したイリア・マリニンを称え、2位の鍵山優真を称え、その姿勢は一貫していた。

 そのふるまいもまた、宇野昌磨というスケーターの像を伝えている。

 そしてこれら、氷の内外の姿から伝わるのは、苦しかったという時間にあってなお、最善を尽くしてきたことだ。世界選手権へ向けての練習だけではない、ずっとそうしてきたのだ。

 世界選手権4位という結果を「敗れた」と捉える向きもあるだろう。競技である以上、それはいたしかたないかもしれない。

 でも、順位におさまることのない培われた演技の魅力を残した今大会と、ここに至るまでの過程を振り返るとき、そこに浮かぶのは敗れざる者としての姿だった