ニュージーランドの北東部、美しい海岸線で名高いタウランガの街は、まだハイシーズンを迎えてないこともあり、人影も少なくひっそりと静まり返っていた。

先住民マリオの言葉で「カヌーの停泊所」を意味するタウランガは、10世紀後半にマリオが初めてニュージーランドにカヌーで乗り着けた場所といわれている。

そんないにしえの時代に思いを馳せながら静かな海をしばし眺めていると、鮮やかなブルーにペイントされた美しいフル4シータースーパーカーは黄金色の夕陽を受け、眩いばかりの輝きを放っていた。

そうして、プロサングエによる旅の1日目は、静かに幕を閉じた。

この最高のグランドツーリングカーと旅していたい

第1レグの2日目は、北島の中心部にあるニュージーランド最大の湖、タウポ湖を目指し、さらに南下した。ルートの9割ほどが、昨日と同様に緑の稜線を遠方に望みながら、ゆるやかな起伏のあるワインディングロードを駆け抜ける、ニュージーランドならではのドライブとなった。

そんな道を、放牧された牛や羊の群れが草を食むのを横目にしながら、ゆったりと流す。そうしたシーンでは、プロサングエは街路と同様、静かで上質なサルーンのようだ。

しかし、ひとたび「マネッティーノ」のドライブモードをSPORTにセレクトしペースを上げると、再びマラネロ製スーパーカーとしての役回りを完璧に演じ始める。

フル4シーターのボディはさらに俊敏性を増し、コーナーの出口でアクセルペダルを深めに踏み込むと、伝統のV12ユニットならではの甲高いカンツォーネを轟かせ、ドライバーの快楽中枢をこれもかとばかりに刺激する。

速度違反の取り締まりが厳しいニュージーランドで“跳ね馬”のステアリングを握るには、ドライバーに強い自制心が求められるのだ。

途中、北島中央部に広がる大地熱地帯に位置する温泉の街、ロトルアで小休止。樹高が数十メートルにおよぶレッドウッド(アカマツ)の森でツリーウォークを楽しんだ後、さらに南下し、第1レグのゴール、タウポへと一気に走り抜けた。

試乗を終えてタウポ湖を望む高台のヴィラに到着すると、ピカピカに磨き上げられていたプロサングエのボディは、約470kmに及ぶ第1レグのドライブの痕跡を残すように、泥はねや虫の死骸で汚れていた。そして、その様がなんとも素敵なのが印象的だった。

雪道でも泥道でも路面を選ばず、高級サルーンのごとく家族4人が快適に移動でき、いざアクセルペダルを踏みこめば、いつでもV12がもたらす官能的なサウンドとフェラーリならではのパフォーマンスを堪能できる。

プロサングエは、悦楽に満ちた走りや息をのむ美しい内外装といったフェラーリならではの美点に、多用途性という新たなる特長を見事に融合させた、まさにオールランドなスーパーカーだった。

または、内燃機関の時代を代表する最高のグランドツーリングカーの1台といってもいいだろう。

「この最高のグランドツーリングカーと、もっともっと旅を続けられたらな」

先住民マオリの伝説で「北島の心臓」を謳われた神聖なタウポ湖。シンガポールの面積に匹敵するこの広大な湖を眺めながら、そんなことを考えていた。