戦う相手でありながら、お互いを高め合う仲間

 ただ、前走者が好演技を披露すると、場内の熱気にもおされ、より重圧を感じてうまくいかないケースは少なくない。ましてや全日本選手権は、どの選手も「特別な舞台」だと言う大会だ。「いちばん緊張する」「プレッシャーが半端ない」ともしばしば耳にしてきた。世界選手権などの代表も懸かっているから、もてる力を発揮するのは容易ではないし、そろってそれが実行されることはそうそうない。だから今大会の最終グループは、ひときわ強い印象を残す。重圧を跳ね返し、むしろエネルギーに変えたかのような演技が、まるでバトンを渡すように続いた。

 何がその原動力となったか。シーズンを通しての流れなどさまざまな要因はあるだろう。そのうえで1つあげられるのは、宇野と鍵山、山本がそろって練習する機会が多いように、切磋琢磨した関係であることだ。鍵山と佐藤も同年代としてジュニアの頃からライバルであり友人であると語っていたし、宇野と山本はジュニアグランプリファイナルに一緒に出るなど長年の関係がある。そして友野や三浦もまた、彼らと交流しつつ競ってきた。戦う相手でありながら、お互いを高め合う仲間でもある。そういう関係を築いてきた。競い合う選手の好パフォーマンスをネガティブに捉えるのではなく、ポジティブに受け止めることができた力ではなかったか。山本の渾身の演技を目にして手をたたいて称賛した宇野の姿は1つの象徴だった。

 演技を終えて、宇野は語った。

「ここで不甲斐ない演技をしてしまうとよくないなっていうのはありました。もちろん自分が勝つことというのも大切でしたけど、ここまでほんとうに最高の演技で最高の試合で、やっぱり僕もいい演技をすることがこの試合を最高のものにするという思いがあったので、そこに結構焦点をあててジャンプを跳びに行きました」

 第一人者としての自覚あふれるその言葉も示唆的だった。

演技後、“セーフ”というポーズをとる宇野 写真=森田直樹/アフロスポーツ

 坂本は最後にこう話している。

「見ていて『やっぱりスケートって面白いな』ってすごく感じました」

 そしてきっと、これ以上はないかという熱気の中にいた6人のスケーターの、さらなる成長の契機ともなるだろう。