事前のネット検索や、筋書、イヤホンガイドを活用

 事前に、チェックしておくと面白く観られるのは、役者たちの親子親戚関係だ。

 11月の歌舞伎座なら、坂東巳之助(34歳)とネット検索してみると、故・坂東三津五郎の長男であることがわかる。

「下がり目でかわいい女方の中村米吉くん(30歳)は、夜の部『松浦の太鼓』の同じ舞台で俳人其角を演じている中村歌六さん(73歳)の長男。片岡孝太郎さん(55歳)の父は、『松浦の太鼓』で松浦の殿様を演じている片岡仁左衛門さん(79歳)だとか、中村隼人くん(29歳)の伯父は『鎌倉三代記』で三浦之義村を演じている中村時蔵さん(68歳)とか、わかってから観たほうが面白いですよね。歌舞伎は家が基本。親子、伯父甥、従弟といったことが役付きにも関わってきていて、それもまた不思議な世界なんです」

 劇場に入ると、演目の見どころや出演者情報などが載っているパンフレット、「筋書(すじがき)」が売られている。始まる前に読んでおくと、舞台がわかりやすくなる。

 歌舞伎公演は、本来1日かけて演じられる長い演目を、一幕だけ切り取って演じているものなどが多いので、初めてだとよく理解できないこともあるが、松田さんは問題ないという。

「もともと歌舞伎は、江戸の庶民の娯楽ですから、そんなに難しく考えなくてもたのしめるものなんです。

 筋書でチェックしておくといいのは、ストーリーより、見どころ。『知らざあ言ってきかせやしょう』といった名台詞。主人公の二人が止まってキマる瞬間など、歌舞伎には、『これを聞かせるために、ここを見せるために演目がある』と言えるようなものがあります。『音羽屋!』『大和屋!』といった掛け声も掛かる見せ場ですから、予習しておくといいと思います」

 歌舞伎座には、同時解説「イヤホンガイド」もある。オンラインストアの事前予約や劇場のカウンターで有料貸し出しをしており、演目の解説を聴きながら観劇できる。

「観ているだけではわからない、演目のなるほど解説がたくさん聞ける面白さが魅力です。ただし、イヤホンをつけて音声を聴きながら観劇すると、役者の息遣いや劇場の雰囲気を100%味わうことができないというデメリットもあるんですよね。私が昔やっていたのは、1回目は安い後ろの方の席でイヤホンガイドを聴きながら観て、2回目はイヤホンガイドなしでいい席で観るというやり方です。これだと、舞台がすごくたのしめます」

 

歌舞伎みやげ、食事など、劇場周辺そぞろ歩き

 観劇の前後に近くのお店に行くのもたのしみのひとつ。

「歌舞伎座には、場内や地下に売店やおみやげの店がたくさんあるので、目移りするほど。公演のある日は多くの人でにぎわっていますし、周囲にもたくさんのお店があります。

 私は歌舞伎みやげには、歌舞伎座のはす向かいの銀座大野屋で、日本手ぬぐいをたくさん買っています。團十郎の『かまわぬ』、菊五郎の『よきこときく』など、役者にちなんだ柄もありますし。『勧進帳』を観た記念には弁慶格子柄のものを買うなど。創業明治元年という老舗は、立ち寄る価値ありです」

 シチュー専門店「銀の塔」、日本最古の本格インド料理店「ナイルレストラン」のムルギーランチなど、役者たち御用達のグルメも周辺に数多くある。

「終演後に歌舞伎座横の茜屋珈琲店に行ったら、さっきまで舞台に出ていた寺島しのぶ(50歳)の息子、尾上眞秀くん(11歳)が、紙袋を持って入ってきたことがあります。渡されたお店の人が『ママは?』と聞いたら『あとで行くって』といってぴょこんとお辞儀をして出て行きました。そんな光景が見られるのも、歌舞伎座のある東銀座の街ならではのたのしみですね」

 

※情報は記事公開時点(2023年11月13日現在)。