おどろおどろしい地獄絵も多数
国宝・重文といえば、品のいい格調高い作品を想像しがちだがそんなことはない。血なまぐさい“地獄系”や思わず目をそむけたくなる“病み系”も豊富だ。展覧会にはこれらの作品もきっちり出品されている。
重要文化財《沙門地獄草紙》は生前に罪を犯した者が堕ちる地獄を描いた絵巻。「火象地獄」の場面は淫欲におぼれ仏門を汚した僧侶が堕ちるとされ、象に踏みつぶされ嚙み砕かれる苦しみが続き、一晩で千度生死を繰り返す。「沸屎地獄」の場面は生前酒を飲み、においの強い野菜を食べ、肉食を好むと堕ちる地獄を描いたもの。臭い膿の川と煮えたぎる屎の川が流れ、そのおぞましい光景を見た者はこれから味わう苦しみを想像して耐え切れず、口や目から火を噴きあげてしまう。
国宝《辟邪絵》には、朝に三千、夜に三百の“虎鬼”を食べるという“神虫”の姿が描かれている。血走った目、牙の生えた口、4枚の黒い羽根、大きな爪のついたたくさんの手を持ち、鬼たちをつかみ食らっている様子が何ともグロい。ミュージアムショップでは、この神虫をあしらったTシャツやグッズが販売されている。東博のユーモアとセンス、恐るべし。
《沙門地獄草紙》や《辟邪絵》、さらに様々な病気に苦しむ人を描いた《病草紙》などの作品は後白河法皇が制作を企画したもの。後白河法皇は30年以上にわたる院政を敷き、王朝権力の復興・強化に専念した人物として知られている。地獄や病の苦しみを見せることで、人々に正しい道を示したのであろうか。
展覧会のラストを飾るのは、室町時代に制作された重要文化財《浜松図屏風》。まぶしく輝く浜辺の風景に四季の草花や鳥の姿が描き込まれ、画面右から左へ移ろう季節が表現されている。春夏秋冬、それぞれ異なる魅力をもつ四季の美しさは、四方を海に囲まれた日本特有のもの。そんな日本の四季を光に満ちたパラダイスとして描いた本作は、究極のやまと絵といえるだろう。