「持っていってしまう」当代・四代目猿之助

 四代目猿之助は、三代目の弟である四代目市川段四郎の息子。幼い頃から伯父である三代目猿之助のもとで修業を重ねるが、慶応大学を卒業したのち、2003年(平成15年)には三代目猿之助の猿之助一座を離れている。

「伯父のもとを離れる決断をした理由は、一年の約半分もスーパー歌舞伎を上演する猿之助一座では、古典がしっかりできないということが大きかったでしょうね。いざ一座を離れるとやはり厳しくて、最初の月は、河内山の近習の端っこという端役でした。しかし、何しろ力がある。一番下からという扱いに耐えて、あっという間に頭角をあらわし、のし上がっていきました。歌舞伎はもちろん、大河ドラマ『風林火山』の武田信玄役を皮切りにテレビでも活躍が続いたのは周知のとおりです」

 2022年11月の團十郎襲名公演『助六』。猿之助は、團十郎演じる主人公の助六に股をくぐらされる通人という役でつきあっている。芝居の筋とは関係ないほんの短い出番なのに、観客はすっかりひきつけられ、満場がわきにわいた。

 「四代目の特徴は、なんといっても『持っていってしまう力』です。観客をつかむ技術が高い。それはどんな舞台でも同じです。現代劇は歌舞伎より稽古期間が長いんですが、本人は『2か月も稽古していると飽きてしまう』と言っているそうです。はじめの1か月半はおとなしくしていて、まわりが『こいつ大丈夫だろうか』とザワザワし始める。そして、稽古終了の3日前ぐらいになってやっと仕上げてきて『なるほど、こいつできるんだ』ということになり、本番にはさらにすごい芝居をするというイメージでしょうか。共演する役者にとって気をつけなくてはならない相手ですね」

「ともかく実力があり、客観性もあって、プロデュース力、演出力がある。集中力も身体能力も高い猿之助は、この先歌舞伎がどう転んでも活躍していく」と児玉さんは請け合う。八面六臂の活躍を見せる当代猿之助の舞台には、歌舞伎界に旋風を起こし続けてきた猿之助四代の歴史が息づいている。