厳格なルール+感情的な装飾=シャネルスタイル、という方程式

「シンプルな」ドレスにも「機能的な」スーツにもいえることは、ストイックとも呼べるルールが通底しているということ。そんなルールが支配する世界とは真逆な世界にあるのが、シャネルのジュエリーである。

シャネルのクリエイション、ロベール・ゴッサンス製作 プラストロン(胸飾り)1960年代 シルバー、ゴールド、メタル、ロック・クリスタル パリ、パトリモアンヌ・シャネル

 本物の貴金属と、アクリルなどの模造品をミックスしてコスチューム・ジュエリーというジャンルを作り、金融資産とエレガンスの問題を別物にしてしまった革命家としてのシャネルの功績は繰り返し語られてきた。「宝石で人の目をくらませようとする熱意には虫唾が走る。宝石は嫉妬心をかきたてるものではなく、せいぜい驚かせるためのもの」と言い放ったシャネルの言葉はいまなお痛快に響く。

装飾を排した服のスタイルとは正反対に、華麗に豊饒に展開するコスチュームジュエリー

 本展で眼前に広がるシャネルのジュエリーの印象は、「巨大だ……」であった。巨大でありながら、高度な職人技術が生む洗練をきわめた繊細さが同居している。さらに、彼女の「個人的な」感情がスパークしたモチーフが広がる。ビザンチン、バロック、エジプト、インド。しし座、麦の穂、星、太陽、十字架、カメリア。ひとつひとつのモチーフにシャネルの思い出があり、シャネルという個人にとっての「意味」があるのだ。そのウェットなセンチメント炸裂ぶりにわくわくしてくる。

 ここへきて、シャネルスタイルの方程式を理解する。

 厳格なルールに基づく基本スタイル+個人的感情を自在に表現する装飾。

 一貫したストイックな哲学+パーソナルな感情の華麗な発露、と言い換えてもいい。

 この方程式に気づいたとき、シャネルというブランドの強さも同時に理解できる。なぜとんでもなく高価であり、それでもなお人が求め続ける高みにいられ続けるのか? 

 シャネルが表現するのは、生き方に対する自信と誇りだからである。一貫した厳しい哲学をもちながら同時に、個人の感情を尊重して自由に解放する生き方をすること。そんな風に生きるとかっこいいでしょう? 私のように。私の作るファッションのように。

 自身がそんな生き方の最高のモデルであり、女性たちが思い描く無形の価値観の完璧な見本であるかぎり、ブランド価値を高く保ち続けるシャネルは永遠に「飽きられない」。

 あなたの「ブランド」にそのような思想はあるか?

 あなたはその思想を矛盾なく体現する生き方をしているのか?

 そんな問いまで突き付けられる、刺激的な展覧会である。