文=鷹橋 忍

妙本寺の境内にある比企一族供養塔

流人時代の源頼朝を支えた比企尼

 大河ドラマ『鎌倉殿の13人』では、佐藤二朗演じる比企能員と、堀内敬子演じる能員の妻「道」が北条氏への対抗心を燃やし、比企氏vs.北条氏の全面対決を予感させている。

 そこで今回は、北条氏の最大のライバル・比企氏を取り上げたい。

 比企氏の活動が確認できるのは、草笛光子演じる比企尼からである。

 比企尼の出自は不明だが、源頼朝の乳母(めのと)の一人であった。

 乳母は、生母に代わって授乳するだけではない。主人夫妻に代わり、一家を挙げてその子を養育する。

 比企尼は永暦元年(1160)、頼朝が「平治の乱」の敗北により、伊豆国に配流されると、武蔵国比企郡を請所とし、夫の比企掃部允とともに下向した。

 比企尼の夫は、比企郡に下向してからしばらくして亡くなっているが、それでも、比企尼は、頼朝が挙兵するまでの20年間、仕送りを続け、頼朝を支えている。頼朝には複数の乳母がいたが、比企尼ほど尽してくれた者は他にいない。

 当時の比企尼に、頼朝が武家政権を樹立することなどわかるはずもない。比企尼の献身は見返りを求めない、無償の好意だったとみられている(細川重男『頼朝の武士団』)。