オレンジワイン? グレーワイン?

 シュール・リー、生産地に応じての栽培・醸造方法の工夫のほかに、現在、甲州で普及している代表的な手法が、オレンジワインです。

 日本ワインでは「醸し」という言葉が甲州とともに入っていれば、これだとおもって間違いないでしょう。

 そもそも、オレンジワインとはなにか?というと、果皮や種子を長時間果汁と接触させる白ワインです。これは、ジョージア、イタリアのフリウリのワインなどで有名ですが、言ってしまえば、赤ワインと同じ造り方をした白ワインです。赤ワインで果皮の色とともに、果皮や種が持つ味を果汁につける工程をマセラシオンというのですが、これを白ワイン用の、緑色のブドウで行うと、品種によっては、果皮由来のオレンジ色、あるいは琥珀っぽい色がワインにつくため、これを、オレンジワインとかアンバーワインと呼びます。

 日本語だとマセラシオンは「醸し」というので、甲州で造ったオレンジワインを「甲州 醸し」などと呼びます。

 これもメルシャンが先駆的にはじめた甲州のスタイルです。2003年に発売した「甲州グリ・ド・グリ 2002」がメルシャン初の甲州のオレンジワイン。グリ、というのはフランス語でグレーを意味していて、甲州というブドウ品種は、白ワイン用のブドウではありますが、果皮は緑ではなく、熟すと薄いピンク色になっていきます。これをワインの世界ではグリと呼ぶのですが、いずれにしてもオレンジではないので、グレーのブドウから造られたグレーのワイン、という意味で「グリ・ド・グリ」という呼び方をしているのでしょう。

 甲州の醸しは、世界の他のオレンジワインと比べても独特です。というのはオレンジワインは、渋みや苦味、スパイシーさ、独特の青臭さなどが出て、クセが強くなりがちなのです。このクセが、白ワインでは負けてしまうような、かといって、赤ワインやロゼワインではいまいち合わない、味のしっかりしたオリエンタルな料理と絶妙なペアリングを生むところが、最近のオレンジワイン人気の理由でもあるのですが、甲州のそれは、もとがさっぱりとしたブドウのせいか、あるいは日本人のきめ細やかさのおかげか、とてもクリーンで、主張が控えめな場合が多いのです。

 これが、料理とワインがパワーとパワーのぶつかり合いになることもままあるオレンジワイン界隈において、柔和な、独特のペアリングを実現してくれます。

 ワインにおけるポリフェノールの研究をずいぶんした、という仕込み統括の丹澤さんによると

「ポリフェノールと一言で言っても種類がたくさんあり、赤ワインの色合いを作り出すアントシアニンも、渋味を作り出すタンニンもポリフェノールですし、お茶に含まれるカテキンもポリフェノールです。グリ・ド・グリにはカテキンの仲間のポリフェノールが多く含まれる傾向にあります。私にとってグリ・ド・グリはお茶のイメージ。だから日本食やアジアの食事に合うワインなのだと思います」

 現在は「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ」という名前で、シャトー・メルシャンの甲州オレンジワインが一般に販売されています。世界的にも評価が高いワインです。

「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ 2020」2400円(税別)

 こちらの適作地は、川沿いの水はけがよい土地。寒暖差が強すぎる場所では、皮の色づきがよくなりすぎ、そのポリフェノールが勝って、メルシャンのイメージする理想形よりもごっつい感じになる、とのこと。笛吹市の甲州ブドウはよく熟していながら、渋みを増やしすぎていないので、醸し発酵に適しており、メルシャンでは2017年に産地を入れ、「シャトー・メルシャン 笛吹甲州グリ・ド・グリ」として登場しました。

 

甲州と食事

 せっかく料理の話が出たので、甲州を世界に通用するワインブドウへと育て上げ、いまもなお可能性を追求するシャトー・メルシャンで、第一線を張る田村さん、丹澤さんに、食事と甲州のペアリングも尋ねてみました。

 まずは田村さん。

「山梨はブドウだけでなく、フルーツの名産地です。最近の発見では、干し柿とクリームチーズ(シャトー・メルシャンで売っているシャトー・メルシャンオリジナル「玉諸甲州きいろ香ワイン・フォンデュ」ですよ!)、これに甲州ワインが非常に美味しかった。昨年はイチゴとグリ・ド・グリのステキな発見があったんですよ」

 これに丹澤さんが「あれは本当に発見だった!」と呼応する。そのおふたりのひみつ、教えてください。

「イチゴとグリ・ド・グリは新しい味を生みます!あれは説明できないです。ぜひ、やってみてください」

 そして、丹澤さんが続ける。

「日本ワインはまだ、どうしても価格が高くなってしまいがちです。ただ、『きいろ香』や『萌黄』(シャルドネと甲州のブレンド)のようなお手軽な価格のものは、あまり深く考えず、ハンバーグでも、中華料理でも、普段のお食事と合わせてもらえたら嬉しいです。特に、ブレンドで造るワインは懐が深くなりますから、それほど相手を選びません。きいろ香は柑橘の風味がありますから、お料理にレモンを搾るようなイメージで、というのは、定番すぎますかね? グリ・ド・グリは、人気があるので、造るのは大変なのですが、もっとたくさん造れるように頑張っています」

 そのほか、甲州以外でも、いくつか、オススメのペアリングを聞けたのだけれど、今回は甲州の話なので、それはまた、次の機会に。

シャトー・メルシャン 勝沼ワイナリー