中国に学ぶOMO‐UX戦略と日本型DXの在り方

アフターデジタル時代到来

JBpress/2019.10.30

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 一例として日本でなかなかうまくいかないレンタルサイクル、シェアサイクル(シェアリング自転車)を挙げましょう。北京に本社を持つモバイクはシェアサイクルの大手なのですが、とにかく市街の各所にモバイクの自転車が設置されており、アプリでQRコードを読み込み解錠することで、どこでも乗れますし、好きな所で下車することができます。この利便性の高さは日本の水準を大きく超えており、ユーザーにとって快適なエクスペリエンスとなっているため普及しているのです。

 しかし、よくよく考えれば「ここまで便利にしようと思ったらコストがかさんで赤字になるはずなのに、なぜ事業として成立しているのだろう」ということになりますよね? タネを明かせばテンセント(WeChat Payの運営企業)がモバイクに出資しているからなのです。個人IDに紐づく、自転車を利用した移動データを獲得できれば、それを活用することでいかようにでもマネタイズできるからこそ、テンセントは出資を惜しんでいないし、結果として中国の人々が良質なUXを獲得できているということになります。

 実はこの変化が孕んでいる意味はとても重いのです。シェアサイクルが浸透すればどうなるかといえば、従来の個人用自転車は売れなくなります。買わなくても、好きな時に好きな場所で乗れて、30分で1元程度と格安なのですから。そうなれば自転車メーカーは困りますが、例えばモバイクのようなシェアサイクル事業者がレンタル用の自転車を大量発注してくれたなら、メーカーは経営を維持することが可能になる。そうして業界内でパワーバランスの大変革が起きるわけです。

 このビジネスにおいて最も強い支配力を得るのはAlipayやWeChat Payといった決済事業者。次がモバイクのようなサービサー。そしてその下にメーカーが甘んじる他ない構造が生まれるのです。さあ、これが自転車ではなく自動車の世界で起きたなら、日本が誇る自動車メーカーはどうなるでしょう? もうお分かりですよね。だからこそ、各自動車メーカーはMaaS(Mobility as a Service)に代表されるサービス事業に注力をしているのです。もちろん自動運転の進化など他のさまざまな要因もあってのことですが、メーカーとしての立場だけに固執してはいられない事情があるからこそ、重大な危機感をもってDX に取り組んでいる。OMOの普及と浸透は以上のように、あらゆる産業界に大きな影響力を持つのです。

 

 もう1つの事例は保険です。中国平安保険は今や世界最大級の保険会社なのですが、この平安保険が提供している「好医生(グッドドクター)」は、今やダウンロード数2億を超えるモンスターアプリです。この驚異的な伸びの背景にあるのは中国の医療事情。以前の中国では、市民が信用できると思う町医者が少なく、大病院へ人々が集中し、「風邪をひいただけなのに、医師に診察してもらうまでに3日もかかる」といった状況が発生していました。

 平安保険は、この状況をペインポイント(顧客の痛点・悩みの種)と捉えたのです。「好医生(グッドドクター)」があれば、チャットベースで平安保険がピックアップした信頼できる医師に無料で相談できる上、必要となればその流れのまま病院を予約することも出来るのです。しかも、こんなに便利でありがたいサービスが無料で提供されているのです。なぜ無料でいいのかという理由は、先ほどの事例と同様、「相談者が風邪で病院にいくことになった」等、状況を捉えたデータに価値があるからです。これらのデータを活用することで保険のセールスというビジネスにつなげていけるのです。