2018年9月に経済産業省が発表した「DXレポート」によると、2025年には21年以上稼働している基幹システムを利用している企業が6割を超え、不足するIT人材は約43万人にも上るとされています。加えて、多くの企業で導入されているSAP社のERP(統合基幹システム)の保守サポート切れを迎えます。今すぐ手を打たなければ、2025年から年間最大12兆円もの経済損失が発生する可能性があると試算されており、これが「2025年の崖」といわれるゆえんです。12兆円という数字の多寡はともかく、この問題を放置すれば、デジタル時代の競争力を左右する“データ”を活用しきれないばかりか、システムの維持・運営のコストの増大、サイバーセキュリティや事故・災害などによるシステムトラブル、データ滅失などのリスクが飛躍的に高まります。

 来場者の皆さんも心当たりがあると思いますが、DXに取り組もうとしてコンサルタントやSIer(システムインテグレータ)に相談すると、「クラウドに移行しましょう」「ストレージを増やしてみましょう」など、さまざまな提案をしてきます。もちろんDX推進に向けたアプローチとしては、いずれも間違いではありません。しかし、DXに取り組む手順としては、クラウドの導入やストレージの増設はいずれも全社的なデータを統合した後の話であり、入れ物の話を先にするというのは本末転倒なのではないでしょうか。

 ビッグデータやAIをはじめとする先進的なデジタル技術を用いた実証実験に取り組む企業は増えています。しかし、大半の企業では保有する顧客データを有効に活用できていないのが現状です。ビジネスを加速させるためにDXに取り組むのであれば、シンプルにまずは顧客データを徹底的に活用することに目を向け、全社横断で顧客中心のアプローチを実践することが重要だと考えます。

 正しい顧客像を把握し、最適な販売戦略を実現している企業の代表格がAmazonです。Amazonではデータを活用することで一人ひとりの顧客に最適なリコメンドを提示してくれます。もし、とんちんかんなリコメンドを出されたら、途端に興ざめして信頼をなくしますよね。まさにこれこそがDXの真骨頂といえるのではないでしょうか。

 以上のことを踏まえ、DXを実現したい、またはDXの推進を迫られているという企業は、まずは自社の現状を確認してみてください。DXの実現には5つのステップがあること、自社は今どこのステップにあるのか、そしてデータ統合の必要性について関係者の方々と議論していただきたいと思います。