文・写真=沼田隆一

ガバナ―ズ・アイランドの向こうにはマンハッタン南端のビル群がそびえたつ。9.11の跡地に建ったフリーダムタワーひときわ目立つ

迷走飛行のアメリカ

 アメリカは相変わらず二分化が顕著になり、政治的にも外交的にも多くの難問が山積している。支持率の低下が目立つバイデン大統領のこれからの手腕によっては、民主党・共和党の比率の逆転というシナリオも単なる絵空事ではない事態になるだろう。なんだか今のアメリカは、現代版南北戦争の感がぬぐえない。

 ヨーロッパもそうであるがアメリカでも長距離輸送網のマヒ、とりわけトラックドライバーや港湾施設のマンパワー不足などにより、原油価格と相まって庶民の生活に様々な影響が出ている。物流の滞りは、モノ不足による物価を押し上げ、また品不足は、感謝祭やクリスマスシーズンの旺盛な購買欲にブレーキをかける心配もでてきている。

 共和党と民主党との深まる対立だけが問題ではない。民主党さえ一枚岩ではなくなり、重要法案がなかなか可決できない。そんな内情を知る諸外国の眼からみると、大国アメリカがすでに民主主義の守護者としての力を失ってきていると映っている。それでもアメリカを目指して多くの難民が押し寄せる現状に、効果的な解決策を見いだせてない。

 この国がデス・スパイラルに陥るかどうかは、ワシントンの為政者だけでなく、国民ひとり一人が真剣にこれからのアメリカをどういうふうに作りあげるかを考え、行動することにかかっている。もはや白人は圧倒的多数ではなく、今年8月の国勢調査では白人の比率は過去最低となった。カリフォルニア州などはヒスパニック系が白人を上回り、その他の5つの州では白人の人口比が5割に満たない状況である。このように白人がマイノリティになる可能性があることを危惧し、共和党が強い州では一部の白人たちがラテン系、黒人系の選挙への参加をあの手この手で阻止しようとしている。

 国勢調査の結果、下院議員の定数が再分配されることにより、下院定数は共和党基盤の南部での定数が増加することは、下院での民主党の立場を危うくする可能性がある。それは今の民主党政権が盤石ではないことを表している。アメリカの行方はいまだ不透明である。

 

長い眠りから覚め、強い鼓動が再開したニューヨーク

 こういったネガティブな話が最近のメディアでは目立っている。が、少なくともニューヨークでのCOVID-19対策は確かに成果を上げ続けている。毎日の感染状況が改善され、重症者や死者数がワクチン効果で減っている。ただしワクチン接種にためらいを持ち個人の自由と信条から、接種に反対する人たちもまだまだいることで接種率の伸びはゆっくりである。

 ニューヨーク市ではワクチン2回接種率が66%に達している。ワクチンによる成果をしっかり伝え、接種をしない場合のリスクの大きさを辛抱強く説明するしかない。街には無料でCOVID-19のテストをしてくれる車両があちこちで見られる。市当局は医療従事者や政府機関で働く人の接種義務化を、企業では従業員の接種の義務化(もしくは頻繁な陰性検査)が進められている。いよいよ3回目のブースターショットも始まり、5歳以上の子供たちへのワクチン接種も始まる。

 この数カ月、街を行き交う人々の表情はとりわけ明るい。ハロウィーンも今年は仮装した子供たちでにぎやかである。大人たちも迫ってくるホリデーシーズンの準備にワクワクしている。なんだか健康な心臓が体中に血液を元気よく送り出しているような感じだ。賑わいの戻った街で、ワクチン証明の果たす役割は大きい。市内では飲食や劇場など娯楽施設で接種証明と身分証の提示が必要となり、これに従わない店舗や施設は法律で罰則金が課せられる。ブロードウェイやメトロポリタンオペラなども2019年から約2年ぶりに再会され、マスクの着用は厳しく求められるが入所者数に制限はない。どこの劇場も熱気を帯びている。やっとタイムズスクエアにあの喧騒が戻ってきた。