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その花粉症が食物アレルギーを引き起こす

診療を支えるアレルゲンコンポーネント特異的IgE検査

花粉症が引き金で食物アレルギーに、豆乳は特に注意

早春は、花粉症患者にとって受難の季節だ。「鼻アレルギーの全国疫学調査(2019年)2)」によると、アレルギー性鼻炎全体の有病率は49.2%。すっかり国民病だ。

春の花粉症で、まず思い浮かぶのがスギ花粉症だろう。同調査でも、スギ花粉症単独の有病率は38.8%と高い2)。しかし、春の花粉症は他にもある。

「飛散ピークがスギより少し遅いハンノキなど、カバノキ科の花粉が原因で花粉症になる方もいます」国立病院機構相模原病院の福冨友馬室長がこう説明する。

ハンノキは落葉高木で、全国で広く分布している。他に北海道を中心とした中部地方以北に分布するカバノキ科のシラカンバも花粉症の原因となる。これらの花粉飛散ピークは、スギ花粉より遅い傾向にある。

上昌広

福冨 友馬(ふくとみ ゆうま)

国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルゲン研究室長。博士(医学)。2004年広島大学医学部医学科卒業、初期臨床研修(沖縄県立北部病院)。2006年より国立病院機構相模原病院アレルギー科、2012年より現職。

ハンノキ花粉症は、「食物アレルギーの引き金となりやすい」3)という点で、もっと知られるべき花粉症といえよう。花粉症の人が特定の果物や野菜を食べたあと、口の中がかゆくなったり、喉がいがいがして腫れたり、息苦しくなったりすることがある。この症状は「花粉-食物アレルギー症候群」(PFAS:Pollen-Food Allergy Syndrome)1)と呼ばれる。

「PFASで多いのは、ハンノキ花粉が引き金となり、バラ科、マメ科、セリ科などのアレルゲン(アレルギー物質)に反応するパターンです」

たとえば、ハンノキ花粉症の人がリンゴ(バラ科)を食べると口の中がかゆくなることがある。モモやサクランボなども同様だ。

これら食品の中でも福冨氏が「急に重い症状が出ることがある」と特に注意喚起するものがある。「豆乳です。一部の症例では複数の臓器に症状が出るアナフィラキシーや、血圧低下などのショック症状を発症することがあります」

そもそもPFASは、リンゴでも豆乳でも、「交差反応」と呼ばれる生体反応がもとで起きる。花粉症の原因となる花粉タンパク質に対して作られた抗体が、それと似た構造の食物タンパク質にも反応して、食物アレルギーも引き起こしてしまうのだ。

特に豆乳が重篤な症状をもたらす理由については、「まだはっきりとは分かっていませんが、液体であるため摂取量が多く、吸収が早いことが関係しているとも言われています」。

軽症でも、花粉症の咽頭症状に加えて食物摂取による口のかゆみなども出るのだから不快感を覚える。
「PFASの患者さんの花粉症は重いので、それだけでも仕事のパフォーマンスが落ちると言えます」

花粉症と労働生産性の関係を調べた研究では、スギ花粉症患者の労働能率障害率は41.8%に上った4)。これは「自分の労働能率が41.8%低下した」と感じていることを意味する。口のまわりの症状も加われば、さらに影響が出るのは想像に難くない。

診断に「アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査」を用いることも

検査を受けることが、PFASへの対処の第一歩となる。

検査では多くの場合、「血中特異的IgE抗体の測定」が行われる。主に上腕の静脈から採血し、花粉と果物それぞれに対するIgE抗体価という値を測定する。結果、陽性となり、食事後に口がかゆくなるなどの症状もあれば、PFASである可能性が高い。

この検査に併用されることのある検査法がある。「アレルゲンコンポーネント特異的IgE検査」だ。

「たとえば、患者さんに花粉症と食物アレルギーの症状があり、状況からPFASであることは確実とします。けれども、その症状をもたらしうる食物や花粉の因子が複数オーバーラップしていることもある。メカニズムまで調べたいときは、アレルゲンコンポーネント検査をします。また、特異的IgE抗体検査結果と臨床症状との乖離による誤診を防ぐ用途もあります」(福冨氏)

アレルゲンコンポーネントは、アレルギーを引き起こす抗原性と呼ばれる性質をもつ個々のタンパク質を指す。たとえば豆乳では「Gly m 4(グリエムフォー)」というタンパク質がアレルゲンコンポーネントと知られている。「単一のタンパク質」についてアレルギーを引き起こしうるかを調べられるのが、アレルギーコンポーネント特異的IgE検査の特徴だ。Gly m 4はハンノキなどカバノキ科花粉のアレルゲンとよく似た性質をもつアレルゲンコンポーネントである。豆乳アレルギーでは大豆の特異的IgE検査が陰性になることもあるが、Gly m 4の特異的IgE検査が陽性であれば、PFASによる豆乳アレルギーである可能性が高くなる。『食物アレルギー診療の手引き2020』(「食物アレルギーの診療の手引き2020」検討委員会5))には、食物アレルギー診療でGly m 4などのアレルゲンコンポーネント特異的IgE検査を併用し医師が診断することにより「診断精度は高くなる」と記されている。

「検査業者に検査を発注する方式のため、多くの医療機関がアレルゲンコンポーネント特異的IgE検査を実施できる状況にあります。結果は数日で出てきます」(福冨氏)

症状が軽い場合は「食べてもいい」

PFASと診断されたらどう対処すればよいだろうか。

「まず花粉症に対しては、マスクをしたり、薬を投与したりします。体質改善を図るアレルゲン免疫療法もあります。これらは通常の花粉症治療と同様です」(福冨氏)

食物アレルギーの症状への対処はどうか。福冨氏は、「症状の程度により、対処の仕方は変わってくる」と話す。

苦しさを感じる、また顔が腫れるなどの重い症状が出るときは、「その食物を回避していただきます」。前述の豆乳については、「医師の判断にもよりますが、ハンノキ花粉によるPFAS患者さんに関しては、私は症状の程度にかかわらず回避していただいています。決して摂らなければならない食品ではないと考えています」。

ただし、カバノキ科の花粉症が引き金となるPFASの場合は、たとえば同じイチゴでもジャムなどのように、原因の食物を加熱すればタンパク質が失活するため、一部の重症患者を除いて摂取は可能という。「食べたい!」というときは医師に相談してみるとよい。

一方、症状が軽い場合はどう対処すればよいだろうか。

「原因の食物を完全に回避しなければならないということはありません。食べても症状が軽ければ、食べてもよいと患者さんに言っています」

症状が軽いか重いかの目安として、福冨氏は「自制範囲内かどうか」を挙げる。「症状を自分で我慢できる範囲内であれば症状は軽い。そうでなければ重いということです」

働きすぎが症状悪化を招くことも

今回、主に取り上げたのは、カバノキ科の花粉症が引き金となるPFASだ。さほど症例は多くないが、イネ科、ブタクサ(キク科)やスギ(ヒノキ科)の花粉症などもPFASと関連があるとされる1)

「重篤な症状の方は、ぜひ診療を受けてください。軽い症状だったり、症状はないが心配という方も、一度アレルギー科で受診されてみては」(福冨氏)

花粉症は、症状だけからではどの花粉によるものかは見分けがつかないという。「カバノキ科の花粉症は特に将来的に、食物アレルギーの発症につながりやすい。ご自身の花粉症が何によるものか検査してみるのもよいと思います」

“国民病”の有病率はいまも増加傾向にある。

「とりわけワーキングエイジの方々は、働き過ぎで花粉症を悪化させる恐れがあります。ストレス自体がアレルギーの悪化因子とされ、睡眠不足や食生活の乱れ、それに糖の摂りすぎなども花粉症の症状悪化をもたらすと疫学研究で示されています。コロナ禍で外出が減り、日光を浴びずビタミンDが不足している方も、アレルギーの発症や悪化を招きやすいと考えられます」

適切な診断と適切な対処法。これらにより花粉症やPFASによる生活の質(QOL)の低下を食い止め、受難の季節を乗り切りたい。

監修:福冨 友馬 先生 国立病院機構相模原病院臨床研究センターアレルゲン研究室長

参考文献

  • 1)食物アレルギー診療ガイドライン2021 日本小児アレルギー学会, 協和企画, 2021
  • 2)鼻アレルギーの全国疫学調査 2019 (1998年, 2008年との比較) : 速報―耳鼻咽喉科医およびその家族を対象として 日本耳鼻咽喉科学会会報 123(6), 485-490, 2020
  • 3)花粉・食物アレルギー症候群の現状と展望 耳鼻免疫アレルギー(JJIAO)38(2): 43-49, 2020
  • 4)スギ花粉症患者の労働生産性と症状・QOLの関連 ―2008年と2009年の比較 ― 日鼻誌 49⑷: 481-489, 2010
  • 5)食物アレルギーの診療の手引き2020 「食物アレルギーの診療の手引き2020」検討委員会 https://www.foodallergy.jp/care-guide2020/

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