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皮膚から始まる食物アレルギー化粧品やゴム手袋がアレルギーのきっかけになる?

JBpress|2023.12.20

大人になってから急に食物アレルギーになった、という人がいる。しかもその原因は、皮膚に触れる化粧品やゴム手袋だという。なぜ、化粧品やゴム手袋が食物アレルギーのきっかけになってしまうのだろうか。皮膚から始まるアレルギーの仕組みと検査方法、対策などを紹介する。

皮膚にある免疫細胞が異物を学習する

アレルギー反応とは、体内に入ってきた異物を排除しようとする免疫反応が過剰に働いてしまい、有害なものでなくても症状が出てしまうことをいう。食物アレルギーの場合、じんましんなどの皮膚症状の他、唇が腫れるなどの粘膜症状、嘔吐や腹痛、呼吸困難などのアレルギー症状が起きる。

食物アレルギーといえば子どもが気をつけるもの、と考えている人が多いかもしれない。乳幼児期に食べ物を食べ始めるようになると、小腸にある免疫細胞が食べ物を異物かどうか判断するようになるが、ここで特定の食べ物を異物として認識してしまうと食物アレルギーになると考えられている。

ところが、免疫細胞による異物の判断が皮膚でも起きており、しかも化粧品やゴム手袋が原因で大人になってから食物アレルギーになってしまうことがあるという。

藤田医科大学ばんたね病院総合アレルギー科の矢上晶子先生は、「アレルギーを引き起こす原因物質をアレルゲンといい、アレルゲンが体内に侵入すると免疫細胞によってIgE抗体が作られる『感作』という現象が起き、アレルギー反応が起きます。2008年にイギリスの小児科医のギデオン・ラック先生は、皮膚でアレルギー感作が起こるという二重アレルゲン暴露仮説を提唱しました。これを機に、皮膚でのアレルギー感作が注目されるようになりました」と話す。

藤田医科大学 ばんたね病院 総合アレルギー科 教授 矢上 晶子先生

皮膚でアレルギー感作が起きることを経皮感作という。経皮感作の仕組みは次のように考えられている。皮膚の表皮にはランゲルハンス細胞という免疫細胞があり、皮膚に触れる物質に含まれるタンパク質を認識して異物かどうかを学習する。異物と認識したタンパク質がアレルゲンとなり、大人でもある日突然、アレルゲンを含む食物に対してアレルギーになってしまうことになる。

経皮感作による食物アレルギーの例

●化粧品と着色料

経皮感作アレルギーで最近注目されているのが、化粧品が原因で食物アレルギーになることだ。一部のアイシャドウや口紅には、赤い色を出すためにコチニール色素(カルミン酸・カルミン)という成分が含まれている。経皮感作によってコチニール色素アレルギーになる可能性がある、ということだ。

このコチニール色素は、実は着色料として食品にも使われている。コチニール色素アレルギーの人がコチニール色素を含むものを食べると、急に目の周りや唇が腫れるアレルギー反応が起きてしまう。矢上先生は、「目の周りが腫れるという症状は、他の食物アレルギーではあまり見られないものです。はっきりとした理由はわかっていませんが、アイメイクをする部分で免疫が過敏になっているのかもしれません」と話す。

コチニール色素は、赤色のグミやマカロン、ポップコーン、ソーセージ、明太子などに含まれていることがある。「スーパーやコンビニエンスストアで売られているマグロ丼にも、マグロの赤色を維持するために使われることがあるので、コチニール色素アレルギーの人は原材料表示を注意して確認する必要があります」(矢上先生)

●天然ゴム手袋とフルーツ

医療従事者の中には、アボカドや栗、バナナ、キウイフルーツにアレルギーを持つ人がいる。この原因は、職場で使う天然ゴム手袋に含まれているラテックスという成分だ。フルーツの中には、ラテックスに形がよく似たタンパク質が含まれていて、免疫細胞がアレルゲンと認識してアレルギー反応が出てしまう。ラテックスで感作された人に起こる食物アレルギーはラテックス-フルーツ症候群とよばれている。

矢上先生によると、医療従事者の間でラテックス-フルーツ症候群の存在が知れ渡り、ラテックスが含まれていないゴム手袋が普及したことで、ラテックス-フルーツ症候群の患者数は徐々に減っているという。

それでも、飲食業や介護職ではまだ天然ゴムラテックス手袋を使うところがあり、新たにラテックス-フルーツ症候群と診断される人もいるようだ。

●仕事場と食物アレルギー

職業性の経皮感作アレルギーという点では、魚を扱う鮮魚店や飲食店の従業員が魚アレルギーになったり、豆を扱う和菓子職人が豆アレルギーになったりする可能性がある。青果売り場で働く人が一部の野菜アレルギーになった、というケースもある。

●マダニと動物肉

触れるだけでなく、かまれることも感作のきっかけになる。マダニの唾液などに含まれているα-Galという物質がアレルゲンとなり、マダニにかまれることで感作される。α-Galは、牛肉や豚肉、羊肉などにも含まれているため、これらの肉アレルギーになってしまうというわけだ。「自然の豊かなところで、犬の散歩をしてマダニにかまれることが肉アレルギーの発症につながることがあります」(矢上先生)

アレルギーの問診で聞かれることと検査方法

経皮感作かどうかに限らず、食べ物が原因と思われるアレルギー症状が出た場合には、医療機関を受診して原因を特定するのがよい。大人の食物アレルギーの場合、医師は以下のことを質問しながらアレルゲンの候補を絞り込む。

いつ、何を、どの程度、摂取した後、どのくらいの時間が経過し、どのような症状が出たか。直前の食事だけでなく数時間前までさかのぼることも重要だ。

●症状が出た際に運動や飲酒、消炎鎮痛薬の内服をしたか

●口や喉に限定してアレルギー症状が起きたか、全身症状(呼吸困難、消化器症状など)を伴ったか、救急搬送されたか

●過去の食物アレルギー歴があるか

●花粉症、アトピー性皮膚炎、手湿疹、喘息の既往歴があるか

●出身地と現在の居住地はどこか

●職業は何か、仕事場で何を触る機会が多かったか

●使用している化粧品や日用品は何か

●アレルギー症状が出た際に食べていた食品の中で、現在は食べられるものはどれか

食べ物と一言で言っても、料理であれば生なのか加熱済みなのかということも注意点となる。また、同じ食物でも、生のものは症状が出るが、ジャムなどの加工品は食べられるケースもある。 お酒を飲んでいたり疲れがたまっていたり、消炎鎮痛薬の内服や、あるいは運動直後の時はアレルギー症状が全身に現れやすい。歓送迎会で症状が誘発されるケースが多く見られる。 出身地や居住地を聞くのは、その土地にある植物の花粉が感作源となって食物アレルギーになることもあるからだ。こうした情報を患者から聞き取った上で、血液検査や皮膚テストの検査項目を絞り込んでいく。

血液検査では、各アレルゲンに反応する特異的IgE抗体を調べる。例えばラテックスが疑われる時には『ラテックス』だけでなく、ラテックス中の『Hev b 6.02(読み方:へブビーロクテンゼロニ)』というタンパク質に反応する特異的IgE抗体がどれくらいあるかを調べることの有用性が明らかにされている。『ラテックス』という測定項目はラテックス(天然ゴム)から抽出した多数のタンパク質を含むものであり『粗抽出アレルゲン』と呼ぶのに対し、『Hev b 6.02』はラテックス中の単一のタンパク質であり 「アレルゲンコンポーネント」と呼ぶ。「アレルゲンコンポーネント」に対する検査を行うことは、『粗抽出アレルゲン』のみの検査と比較して診断精度が向上することが知られている。現在、いくつかの「アレルゲンコンポーネント」に対する血液検査は保険が適用できる。なお、コチニール色素については、コチニール抽出液を使った皮膚テスト(プリックテスト)を行う。

プリックテストの様子
(藤田医科大学 ばんたね病院 総合アレルギー科 HPより
https://www.fujita-hu.ac.jp/~allergol/checkup.html

経皮感作アレルギーは予防できるかもしれない

検査で原因となるアレルゲンを特定できたら、基本的にはそのアレルゲンを避ける生活を送ることになる。矢上先生は、「経皮感作による食物アレルギーは、時間が経つと症状が出なくなる人もいることがわかってきました。アレルゲンを含む食品を避け、経皮感作を引き起こす物質に触れないようにすることが大切です」と話す。

矢上先生を受診した患者の中には、回転寿司店でアルバイトを始めたら魚の経皮感作によって魚アレルギーになったものの、しばらく直接魚に触れることを避けて生活し、今は魚を食べられるようになった人もいるとのことだ。

ただし自己判断は禁物なので、通院しながら特異的IgE抗体を調べ、医師と相談しながら様子を見ていくことが重要だ。検査は、おおむね半年に1回程度の頻度で行い、特異的IgE抗体の値の推移を見ていくとのこと。

矢上先生は、経皮感作による食物アレルギーを避けるためには、皮膚は免疫の器官であることを認識することが大切であると説く。「職場での対策によって経皮感作による食物アレルギーは予防できる可能性があります。素手で食品を触る頻度や暴露量が多いと経皮感作が成り立ちやすいので、素手で仕事をせず、ラテックスが含まれていない手袋をすることも検討してほしいと思います。また、皮膚のバリア機能が落ちていることも経皮感作の要因になるので、手荒れがある時にはクリームを塗るなど、皮膚の保護をしてください。特に、飲食業や医療に従事する方々は経皮感作の可能性を常に意識してほしいと願っています」(矢上先生)

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