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繰り返すおなかの不調、若年層で増えている腸の炎症かも1)

気軽に受けられる簡便な検査「便中カルプロテクチン」とは

JBpress|2022.6.27

腹痛や下痢が続いて仕事に集中できないのは、たまたま体調が悪いのではなく、腸で慢性的に炎症が起きる「炎症性腸疾患」という病気のせいかもしれない。ここ数年で、炎症性腸疾患の可能性を便検査で予測することができるようになっている。このような症状に思い当たる人は、まずは医療機関を受診して、医師に相談してみてはいかがだろうか。

仕事に支障が出るほどのおなかの不調、原因は腸の炎症かも

大切なプレゼンなのに腹痛や下痢で集中できない、微熱があってミーティング中でも頭がぼんやりする、そういえば最近頻繁にトイレに駆け込む、……軽い食当たりや、ちょっと体調を崩した程度と思うかもしれない。しかし、こうした症状を何回も繰り返し、さらに貧血や血便がある場合は「炎症性腸疾患(IBD:Inflammatory Bowel Disease)」という腸の病気の可能性が考えられる。

IBDは、消化管粘膜で炎症が慢性的に続く疾患の総称である。国内に30万人近い患者がいて、近年若年層を中心に増加している1)。IBDと診断されたからといってすぐに命に関わることはないが、症状が重い場合には会社や学校を休まざるを得ないこともあり、人によっては第一線から退くことを余儀なくされる。実際、アーティストやアスリートの中には、IBDが原因で現役を引退した人もいる。

竹内胃腸内科医院の院長である竹内義明先生は、「IBDは10代から40代で多く診断されます。人生の中で華やかな時期ですが、症状が重くなることによりフルタイムの就職を諦めたり、私が診た学生の患者さんの中には、留年した方もいました」と話す。これらは稀なケースであるものの、長引く下痢や腹痛は肉体的にも精神的にも辛く、生活の質を脅かす存在に変わりはない。

竹内胃腸内科医院 院長 竹内 義明先生

IBDを根本的に治療する方法はまだ確立されておらず、厚生労働省から「指定難病」に定められている。しかし、現在は、薬を使ったり生活習慣を見直したりすることで症状をコントロールできるようになっている。IBDとは長い付き合いになってしまうが、まずは正しく診断してもらうことが重要となる。もし、以下のような症状が繰り返し起きるときには、IBDを疑って消化器内科などの医療機関を受診してほしい。

【からだについて】
⚫︎腹痛、下痢が続いている
⚫︎便に血が混ざることがある
⚫︎痔が気になる
⚫︎下痢や便秘など、お通じが不規則
⚫︎おなかにガスがたまり、張っている感じがする
⚫︎(上に記載のおなかの症状と併せて)体重減少、貧血、栄養失調、発熱がある

【食事について】
⚫︎食事をとると、下痢や腹痛などいつもおなかの調子が悪くなるので、ご飯を食べるのが不安
⚫︎食べたご飯がうまく消化できていない(便に固形物が混ざっている)

【トイレやストレスについて】
⚫︎通学・通勤時の電車で便意をもよおす
⚫︎おなかの不調が続くため、トイレの場所を常に把握していないと不安
⚫︎腹痛や便意により、長時間の電車や車での移動は不安
⚫︎ストレスを感じるといつもおなかが痛くなる

IBDを放置するとより深刻な事態に

IBDは腸などに慢性の炎症が起きる病気だが、その原因は明らかになっていない。竹内先生は、「遺伝的な要因はあるものの、遺伝が原因で必ずIBDになるといった病気ではありません。食事を含めた生活習慣やストレスも関係すると考えられています」と話す。

IBDは、さらに「潰瘍性大腸炎」と「クローン病」に分けられる。潰瘍性大腸炎は、大腸に炎症が起きることにより、びらんや潰瘍ができる病気で、下痢や血便などの症状がみられる。30代から40代で診断される人が多く、放置すると8〜10年後における大腸がんの発症リスクが高まることが分かっている2-4)

一方、クローン病は口から肛門までの消化管のどの部位でも炎症が起こり得るもので、10代から20代の若年層で診断されることが多く、小児の場合、診断が遅れると成長障害にも繋がり成長が止まってしまうケースもある1,5)。潰瘍性大腸炎と比べると、腹痛や貧血、発熱や体重減少が起こりやすいのが特徴である。病態が進行すると、腸の通り道が狭くなったり、完全に塞がってしまったり、穴があいてしまうなど、腸の変形によりおなかに激痛が走って救急搬送されることもある。

IBDは、症状が悪い時期である「再燃期」と、落ち着いている「寛解期」を繰り返すのが特徴であるため、竹内先生は診断のときに、「半年や1年くらい前にも同じような症状がありませんでしたか?」と聞くという。

IBDに似た病気に過敏性腸症候群(IBS:Irritable Bowel Syndrome)がある。IBDと同じく下痢や腹痛などの症状があるが、IBSは腸に炎症がないのが特徴で、ストレスが主な要因と考えられている。

保険適用の便検査で腸の炎症を調べることができる

症状に心当たりがあるときには、医療機関に相談しよう。IBDは腸に炎症が起こる病気なので、IBDと確定診断するためには内視鏡検査が必須となる。しかし、内視鏡検査には抵抗があるという人も少なくないだろう。

「内視鏡検査は、決して楽な検査ではありません。腹痛や下痢はIBDに限らずありふれた症状なので、そのような症状のある患者さん全員に内視鏡検査を実施するわけにはいきません。そこで、内視鏡検査をすべき患者さんを絞るために便検査を行うことがあります」(竹内先生)

この便検査は、保険適用の「便中カルプロテクチン検査」のことを指す。カルプロテクチンとは、白血球の一つである好中球に含まれる成分で、腸に炎症が起こると、そこに好中球が集まる6)。そのため、便に含まれるカルプロテクチンの量を測定することにより、腸に炎症があるかどうかを調べることができる7)

「便中カルプロテクチン検査では、当日または前日の便を調べます。内視鏡検査に比べて負担が少ないので、多くの患者さんは検査を受けてくださいます。診断を確定するための内視鏡検査の代わりになるものではありませんが、炎症性腸疾患の診断を補助する検査として便中カルプロテクチン検査はとても有用です。繰り返す下痢や腹痛に悩んでいる方は、医師に便中カルプロテクチン検査をしてもらえないか、相談してみてください」(竹内先生)

IBDと診断された場合には、薬を使いながら症状をコントロールしていくことになる。潰瘍性大腸炎に対しては、比較的効きやすい5-アミノサリチル酸(5-ASA)のほか、座薬や副腎皮質ステロイドなどを用いて治療をおこなう1)。クローン病の場合は、さらに、栄養を吸収しやすくする食事の工夫や、禁煙も必要になる1,8)

「ストレスがIBDの症状を悪化させることがわかっているので、なるべくストレスを減らし、規則正しい生活と十分な睡眠を心がけることが重要です。潰瘍性大腸炎の場合、特に食事の制限はありませんが、『カレーを食べるとお腹が痛くなる』など個人の体質に合わないものは避けたほうがいいですし、お酒については摂りすぎないようにと伝えています」(竹内先生)

IBD患者さんの妊娠については、妊娠中にIBDの症状が悪化することにより、胎児の発育に遅れがみられたり早産になったりすることもあるというが、しっかり治療をおこなうことで、適切な状態で出産することが期待できる。

周囲の人にも受診を呼びかけてほしい

IBDはすぐに命に関わるものではなく、腹痛や下痢程度の病気だと思って周囲の人にあえて言わない患者さんも多いようだ。竹内先生は、「症状によっては仕事に支障が出る場合もあるので、上司や親しい同僚には報告したほうがいいと、患者さんには必ずお伝えしています」と話す。

また、管理職の立場にいる人は、自分だけでなく、部下や周囲で腹痛や下痢に悩んでいる人がいたら、IBDの可能性を疑い、消化器内科の受診を勧めるのもいいかもしれない。

負担の大きい検査を受けたくないからと放置することは避け、まずは簡便な便検査で自分の身体のことを知っていただきたい。

監修:竹内 義明 先生 竹内胃腸内科医院 院長

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参考文献

  • 1)炎症性腸疾患(IBD)診療ガイドライン 2020(改訂第2版). 日本消化器病学会, 南江堂, 東京(2020)
  • 2)令和3年度 潰瘍性大腸炎・クローン病 診断基準・治療指針, 難治性炎症性腸管障害に関する調査研究(鈴木班)令和元年度紊乱研究報告書(2020)
  • 3)Winawer S, Fletcher R, Rex D, et al : Colorectal cancer screening and surveillance : clinical guidelines and rationale-Update based on new evidence. Gastroenterology 124: 544-560, 2003.
  • 4)日本消化器病学会雑誌 2006; 103(7): 805-811
  • 5)難病情報センター ホームページ https://www.nanbyou.or.jp/
  • 6)Dale I, Fagerhol MK, Naesgaard I : Purification and partial characterization of a highly immunogenic human leukocyte protein, the L1 antigen. Eur J Biochem 134(1):1-6, 1983.
  • 7)Vermeire S, Van Assche G, Rutgeerts P : Laboratory markers in IBD : useful,magic,or unnecessary toys? Gut 55(3) : 426-431, 2006.
  • 8)炎症性腸疾患(第2版) 病因解明と診断・治療の最新知見. 株式会社 日本臨床社, 53-58, 東京(2018).
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