手元に置くことで心躍る逸品がある。それは類い稀なセンスを軸に、厳選の素材を用い丁寧に作られたもの。なかでも長年にわたり、世界から認められてきたブランドの名品に絞ってピックアップ。そのストーリーを深く知ることで、本当のラグジュアリーが見えてくる。
写真/青木和也 スタイリング/荒木義樹(The VOICE) 文/長谷川剛 編集/名知正登
抱え込む持ち方もサマになる新時代のマルチバッグ
Hug(ハグ)は「抱擁する」「抱きしめる」という意味の英語である。しかしその由来ははっきりしていない。古ノルド語のHugga「慰める」が語源と言う人もいれば、古英語のHycgan「抱える」「熟慮する」からの派生とする説もある。ただしそこには共通のエッセンスが感じられる。大事なものへの愛情や敬意が根源にあるのだ。日常や街角でもハグの光景は時に見かけることがある。見知らぬ他人同士のハグであっても、そのシーンはどこか微笑ましさを滲ませるものである。
そしてイタリアの革匠であるフェラガモが新作バッグに与えた名前も「ハグ」。その由来は一体どういうモノなのだろう。フェラガモは、靴職人のサルヴァトーレ・フェラガモを開祖とするメゾンブランドだ。若くしてハリウッドでの靴作りを成功させ、1927年に興した同名の企業が出発点となっている。独自の才を活かし、機能性と美観を両立させた厚底の「ウェッジ」や、透明ナイロンを用いた「見えない靴」など、数々のヒットを飛ばし、世界に知られるブランドとなった。
初代であるサルヴァトーレの逝去後はファミリーが後を継ぎ、バッグやウエアなども手がけるトータルブランドへと発展した。ブランドのアイコンであるガンチーニ(小さな鍵)は、1969年にデザインされた鞄の留め金として登場した特別なモチーフだ。以降バッグや財布、そしてウエアなどにもガンチーニは使われ好評を博している。
なかでもフェラガモのこの“鍵”を巧みに使ったデザイナーが、2022年からクリエイティブディレクターを務めるマクシミリアン・デイヴィスだ。すでに新名品との評価を受ける「ハグ」は、この若きイギリス人デザイナーが手がけた次世代のためのバッグである。
その名のとおり、鞄本体を抱え込むように伸ばした2つのストラップとガンチーニが大きなポイント。また、じつにユニークであるのがこの「ハグ」は、ハンドルやストラップを介して持つだけでなく、鞄そのものを抱え込むように持つ姿もスタイリッシュに映えるデザインなのだ。
人同士のハグが微笑ましいのと同様に、鞄本体を身体に密着させて抱える“ハグスタイル”は、フレッシュでフリーダムな新しさを感じさせるもの。鞄は物を入れて運ぶシーンにマストな相棒である。大事なパートナーとして、もっと親密な関係を結べる可能性が「ハグ」には隠されているに違いない。