道長、脅しに屈せず
ところが、道長は定澄の脅しに屈しなかった。
「もし、悪行を致すような僧がいたならば、寺の上層部たちは、覚悟を致しておけ。我が家の辺りで、そのような事があったら、けっして良い事はない。汝(定澄)は僧綱であるが、その地位にあり続けることは難しいかもしれない。その辺りをよく考えるように」と、逆に定澄を脅した。
夜になると、渡部龍平が演じる興福寺の僧・慶理が道長のもとを訪れ、「すでに木幡山の大谷に二千人が参着している」と告げた。
ところが、道長は、「もし悪行がなされたなら、僧たちも、どうなっても恨むべきではない」、「やって来た場合には、どうしてくれよう」などと、こちらも大胆不敵に返答したのち、明日、陣定を行うように命じた。
翌7月13日には、朝堂院(八省院)に僧たちが参集した。
だが、陣定が開かれ、参集している僧たちを、検非違使を派遣して追い立てるべきという宣旨が下される。
道長も慶理を通して、「すみやかに先非を悔いて、早く奈良に帰るように」と命じ、7月14日には、大衆はすべて退去した。
7月15日には、道長に申文を進上するため、興福寺の別当・定澄ら高僧が土御門第を訪れた。
申文は、大和守・源頼親と当麻為頼の停任や、蓮聖の公請停止の撤回など四箇条から成った。
道長が申文の理に合わぬ所を一つ一つ指摘したところ、僧たちは「道理である」と納得し、還り去ったという。
同座した藤原行成は、「長者(道長)の命を承って、すでに口を閉じたようなものである」(倉本一宏翻訳『藤原行成「権記」全現代語訳 下』)と感銘を受け、道長も「私はうまく処置を行なった」と自讃している(倉本一宏翻訳『藤原道長 「御堂関白記」 (上) 全現代語訳』)。
まことに頼もしいリーダーである。