魂が喜ぶ仕事に就くということ

 ガリアーノは「魂が喜ぶ」仕事に就いた。ディオールのアトリエでのガリアーノの表情からあふれる幸福感はピュアで本物だ。

 ドキュメンタリーはそんな「幸せな」仕事に就き、それに全身全霊をささげた人の象徴的イメージとして、アベル・ガンスの「ナポレオン」と、死ぬまで踊り続けるバレリーナを描く「赤い靴」のムービークリップを織り交ぜる。巨大な野心を抱き、世界を手に入れるものの、最終的には敗北と亡命にいたるナポレオン。魔法の赤いトゥシューズをはいたばかりに死ぬまで踊り続けることを強制されるバレリーナ。ガリアーノのキャリアのところどころに、この二人のイメージが重ねられる。

 野心の向かうまま、魂が喜ぶまま、休みなく、破滅にいたるまで過剰な仕事をやめず走り続けることは、傍から見ると狂気だが、もしかすると、選ばれた天才の宿命なのかもしれない。とはいえ、ガリアーノ自身、深い苦悩を薬やアルコールでごまかしながらやり過ごしていた。暴言事件が実は複数回あったこと、その事実すらガリアーノが認識していなかったことを、ドキュメンタリーは暴露する。「すべてを告白します」と臨んだ撮影だったのに、「記憶にない」と戸惑うガリアーノ。政治家の「記憶にない」とは異なり、本当に記憶を失うほどの惨状だったのだろう。痛ましい瞬間である。

 事件後、彼はアルコール依存症の治療に専念し、心の傷と向き合う日々を送り、2014年、メゾン・マルタン・マルジェラのクリエイティブ・ディレクターとして復帰する。ドキュメンタリーは復活を美談として描くのではなく、彼がいまだに心の傷を抱えながら前進し続ける姿をリアルに映し出す。マルジェラでは、宇宙飛行士のコスプレをして登場するような虚栄には走らない。現在のガリアーノの表情は穏やかだ。天才の魂の呪いのような憑き物が落ちて、人間的な心の成長が表れた、ほどよく「いい顔」になっている。