スタンダードなものほど手間をおしまず、シンプルに素材の良さを生かす
『ホワイトアスパラのクリームソース』にもパルミジャーノと生ハムがこんもりと添えられていた。チーズが別添えなのは、好きなタイミングでかけて欲しいから。飽きないように、味を変えつつ食べてもらえるようにという配慮なのだ。
その日のメニューは食材ありきで決めるという。だから皿の中には季節感が現れてくる。
『平目のトルティーノ』は、焼いた平目にカリカリのポテトをのせたイタリアンの定番。そこに芽ねぎがあるのが面白い。一流の鮨屋が使うという土壌栽培の最高の芽ねぎはねぎ特有の刺激臭がなく、シャキシャキとした食感。魚は三重や和歌山などの産地から届くものが中心、と素材にも森さんらしいこだわりが込められている。
スペシャリテは『淡海地鶏のスモーク』。本来は鶏を丸ごと一羽使うが、おひとり様には小ポーションも大丈夫。また豚肉も一緒に食べたいなど、その日の気分に合わせてわがままにも臨機応変に対応してくれる。
名店仕込みの料理と接客。そのバランスが絶妙。
森さんは東京の『ヴィノッキオ』、『アルポルト』、NYの『バスタパスタ』など、イタリアンの全盛時代に名を連ねる名店を経験した。そこで学んだのは調理だけではない。時代の空気や偉大なシェフたちのフィロソフィー、ホールに立ってゲストを楽しませる術も知った。さらに調理師学校の先生も務めるなど、幅広い活躍ぶりが『京都ネーゼ』に生かされている。
『京都ネーゼ』という店名は、なんと店をオープンする5年も前から決めていたという。その由来を聞いてみると、
「覚えやすい方がいいかなと思って」とあっけらかんと笑った。
ゲストが楽しんでくれるなら”できることは喜んで”。何度も通えばそれだけ自分にフィットしてくるのが『京都ネーゼ』だ。あぁ、なんて幸せなイタリアンなのだろう!