みんなも飢えてたのかな

 11月には東京パノラマシアターの新作公演が控えている。『MoMo de la Paris〜パリから来た桃太郎〜』(渋谷区大和田伝承ホール/11月7日~10日)だ。

「桃太郎が鬼退治をした後の話です。江戸時代に書かれた桃太郎元服姿っていう原作があって、それに桃太郎が鬼退治をした後にその鬼が宝を奪い返しに来るっていう実は話が本当にあるのですが、今、子どもの読む桃太郎って多様化しているのを知ってます? 普通の桃太郎と鬼ヶ島で育った桃太郎も出てきて、2人が出会ったりするんです。要は他者の立場に立って世界を見る力を子どもたちにつけたいという目的だと思うんですけど、鬼退治って桃太郎側からすると正義です。でも鬼側からするとただの略奪です。

 いいと思っていること、していることが実は相手を傷つけていたりすることって私たちの生活の中でも、世界にもあります。自分はこれを信じてる、相手はこれを信じてる、だからこそぶつかり合ってしまう。どちらも間違ってはいなくて、でも人を傷つける、苦しむ人がいる不条理があると思うんですね。現代社会に通じる大切なメタファーを持っているので、今年絶対やりたいなと思っていました。ただ私なのでその表現方法はすごく奇抜で、江戸の桃太郎の話なんですけど、フランスのシャンソンを交えてスタイリッシュにやろうと思っています」

「滑走屋」の経験もそこにいきる部分はあるのだろうか。鈴木は言う。

「正直、見た皆さんの反応にびっくりしています。終わった後も動画をあげてくださったり、自分なりの解釈をされてくだったり。自分が目撃したことを自分の視点と経験でつかみとっていることに、お客さんを含めて初めて完成するようなものなのかな、スケールの大きいものなんだなって思いました。

 自分の振り付けがスケーターの方々にどう受け止められるか、すごく不安なところがあって、なんだこの振り付けは、と思われたらどうしようと思っているところもあったんですけど、細かい振り付けだったり、自分の気持ちを掘り下げて踊ったり、どういうふうに世界観を作るのかだったり、内的なことに皆さんすごく興味があって。もしかしたらみんなも飢えてたのかなって感じるところもありました。私がやってきたことに意味があったし、普遍性があるものなんだなって実感できて、あらためて内面を大切にして舞台を作っていこうと思います」

 最後にこう付け加えた。

「『滑走屋』の再演、祈っています」