出会いの感謝と奇跡
その『Do it』もまた意味づけはされていた。
「大輔さんと出会って5年くらいなんですけれど、『Do it』はその5年の間に彼がシングルスケーターから哉中ちゃんと組んで、そして彼に憧れてついてくる若手のスケーターがいるという等身大な作品にしたいなと思っていました。大輔さんが最初一人で出てくるんですけど、哉中ちゃんとの出会いがあって、そこに友野(一希)くんという大輔くんの背中を追っている選手がいて、村上佳菜子ちゃんというスケーターでありながらテレビでも一緒に活躍する存在があったり、出会いの感謝と出会いの奇跡、それに対する敬意ということがエンディングのコンセプトであることをみんなに伝えました。
出会いがあり、ときに別れがあるかもしれない、でもつながって今という瞬間を謳歌して楽しむ、みんなと共有したいということを伝える。だからスケーターがいろいろなところでいろいろ違うことをしていても、大前提の大きな枠組みをみんな共有していたので、まとまりがあった一つのナンバーになったのではないかと思います」
「滑走屋」を包む雰囲気に話は戻る。
「やっぱり大輔さんの存在も大きかったかな。細かなところでみんながどうしたらいいか、彼が冷静に指示してくれていたので、そういう背中を見て、私も落ち着いていこうという気持ちがありました」
一緒につくりあげる中で、高橋の新たな一面も知ったという。
「なんていうかな、どこまでもあきらめないし、追求力がすごいなと感じました。陸の振り付けを氷の上でするので、たぶんやりにくいところがあったんですよ」
鈴木の振り付けを、高橋と村元が氷上に落とし込んでいく作業を担っていた。
「やりにくいと出てくる言葉があって、『ここの振り付け、ちょっとトリッキー』って言うんです。優しいので、やりにくいとか振り付けを変えて、とは言わずにそう言うんです。振り付けを変えようと言ったことは一回もなくて、トリッキーなんだよねって言いつつそのニュアンスができるかどうか、自分の中で挑戦し続けて、結果的にできてしまうんですよね。不可能を可能にする力というか、あきらめないで追求するのがすごい能力だなと思います。しかもそれを自分だけのものにしないで周りのみんなを巻き込んでやっていく。みんなに対する気配りがすごい。
どうしてもあそこまでのキャリアがあると、自分は偉いとか才能があるって思っちゃう人がいると思うんですけど、いつも彼が口にするのは『自分なんてすごくないから』。若手のスケーターさんとかスタッフの私たちにもほんとうにフラットで、そこに器の大きさを感じて、だからこそみんな彼の思い描く世界についていこうと思ったんじゃないかな。そういうところは新しい発見でした」
ひと息のあと、付け加えた。
「あとは揚げ物が好き、唐揚げが好きということ。とにかく唐揚げ。これはどうでもいいですよね(笑)」
開幕とともに多くの反響を引き起こし、終幕を迎えた「滑走屋」は、だがはたから見れば危機に直面することもあった。それを乗り越えた背景には、鈴木のこれまでのキャリアがあった。(続く)