最新作《時間(タイム)のT》を鑑賞

《時間(タイム)のT》2023年、映像スチル Image courtesy of the artist and Kiang Malingue

 展覧会ではホーが監督と脚本を務めたデビュー作《ウタマ―歴史に現れたる名はすべて我なり》(2003年)から、最新作《時間(タイム)のT》(2023年)まで、7点の映像インスタレーション作品が上映されている。いずれも見逃せない作品だが、何はおいても最新作を見たい。鑑賞疲れする前に、60分におよぶ《時間(タイム)のT》を見ることにした。

《時間(タイム)のT》は、奥と手前に重ねるように配置した2面のスクリーンを使った映像作品。奥のスクリーンにはホーが集めた過去の事件や映画などの映像が映し出され、手前のスクリーンには元の映像をアニメーション化したものが投影される。このスクリーン“2枚重ね”の手法により、現実と虚構が交差した幻想的な空間にいるような気分になる。あたかもホーの思考の中をさまよっているかのような。

 ストーリーはあるようで、ないような。時間に関する断片的なイメージが、次から次へと現れては消える。素粒子の時間、生命の寿命、宇宙における時間。そうしたものがシークエンスに編成され、60分間にわたって「時間とは何か」を考えさせられる。

《時間(タイム)のT:タイムピース》2023年、映像スチル Image courtesy of the artist and Kiang Maling

 例として、1シーンをあげてみたい。カゲロウに関するエピソードだ。

「350万年以上の進化期間を経て、カゲロウは生の芸術を完成した。卵から生まれ、幼虫となり、生殖できる成虫となって水から出て、少なくとも400の卵を産む。その全てが2日以内に行われる」(《時間のT:タイムピース》(2023)より引用)

 その2日は短いのか、長いのか。そもそも時間とは何なのであろうか。アウグスティヌスは言った。「いったい時間とは何でしょうか。 誰も私に尋ねないとき、私は知っています。 尋ねられて説明しようと思うと、知らないのです」