KAWSとバンクシー、どちらが好み?

「MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」展示風景 KAWS《4フィートのコンパニオン(解剖されたブラウン版)》2009年

 KAWSは1974年アメリカ生まれのアーティストで、90年代にグラフィティで注目を集めた。初期作品ではバス停や電話ボックス内に貼られた広告ポスターにスプレー缶で落書きを加えた《アド・ディスラプション(広告への悪戯)》シリーズが有名。「大企業から公共空間を取り戻す」というメッセージが込められているという。本展ではDKNY、カルバン・クライン、ナイン・ウェストの広告をベースにした作品が展示されている。

 KAWSはその後コマーシャル色を強め、特にバツ印の目が特徴の《コンパニオン》というキャラクターシリーズは人気が高い。展覧会では12体のコンパニオンから成る《KAWS ブロンズ・エディション #1-12》を展示。悩みを抱え、悲しげで死にそうな表情をしたコンパニオンは、いつも陽気なミッキーマウスと真逆といえるアンチヒーロー。鑑賞者自身の姿と重なる親近感が、世界中で愛される理由だろう。

「MUCA展 ICONS of Urban Art 〜バンクシーからカウズまで〜」展示風景 バンクシー《ガール・ウィズアウト・バルーン(風船のない少女)》2018年

 バンクシーもKAWSと同じ1974年生まれ。イギリス・ブリストルの出身で、14歳の時にスプレー缶を用いてグラフィティを描き始めた。彼の作品はKAWS以上に政治的メッセージが強い。イスラエル政府がパレスチナ自治区との境界に築いた高さ7mの分離壁に描いた《ラブ・イズ・イン・ジ・エア(愛は空中に)》などのグラフィティは、バンクシーの代表作となった。バンクシーは今も素性を明かさない“覆面アーティスト”として活動。戦争や資本主義を批判する作品を精力的に発表し続けている。

 展覧会には《ガール・ウィズアウト・バルーン(風船のない少女)》も出品されている。2018年10月、サザビーズのオークション会場で落札直後にシュレッダーにかけられ、絵の下半分が裁断されて話題になったあの作品だ。あれから5年以上が経過したが、“事件”の映像を覚えている人も多いだろう。アートは特権階級の人たちだけのものではなく、みんなのもの。あの瞬間を今も多くの人が共有しているのであれば、バンクシーの目論見は成功したといえる。