キュビスムと同じモティーフのバリエーション
マティスとよく比較されるのがパブロ・ピカソです。マティスは1869年、ピカソは1881年生まれで、マティスが12歳年上でした。ふたりは1906年、ガートルート・スタインの家で出会い、以後50年にわたって交流しました。世に出るまで苦労した遅咲きのマティスに対してピカソは早熟な天才で、性格なども対照的でした。
美術史では、鮮やかな原色を大胆に用い、色彩を解放したマティスは「フォーヴィスム」の代表的な画家、対象を複数の角度から幾何学的面に分解し、再構成することで形態を解放したピカソは「キュビスム」の創始者です。キュビスムは、色彩に重きを置いたフォーヴィスムに対する反動として生まれました。ともに20世紀の芸術の近代化に大きく貢献したふたりは、当初、ライバル関係でしたが、しだいに交流を深めていきます。第二次世界大戦中も文通を重ね、ピカソは生涯マティスに敬意を払ったといいます。
1910年代、マティスはキュビスムから学んでキュビスム的な作品を描きました。立体によって人物を表現している《白とバラ色の頭部》(1914年)もそのひとつです。
キュビスムは前から見た顔、横から見たから顔、後ろから見た顔というようにいろいろなところからの視点があります。ですからピカソの作品には、顔は正面を向いているのに目が横についていたり、歪んで見えたりしていますが、マティスが描いたキュビスム的作品はその点を理解しておらず、視点はいつもひとつでした。
マティスはキュビスムの影響を受けたほか、同時期に同じモティーフで自然主義的、抽象的、装飾的といったように異なった表現で創作するということを繰り返しました。ヴァリエーションが多いということもマティスの大きな特徴です。
参考文献:
『マティス 画家のノート』二見 史郎/翻訳(みすず書房)
『マティス (新潮美術文庫39)』峯村 敏明/著(新潮社)
『もっと知りたいマティス 生涯と作品』天野知香/著(東京美術)
『アンリ・マティス作品集 諸芸術のレッスン』米田尚輝/著(東京美術)
『美の20世紀 5 マティス』パトリック・ベイド/著 山梨俊夫・林寿美/翻訳(二玄社)
『「マティス展」完全ガイドブック (AERA BOOK)』(朝日新聞出版)
『名画への旅 第22巻 20世紀Ⅰ 独歩する色とかたち』南雄介・天野知香・高階秀爾・高野禎子・太田泰人・水沢勉・西野嘉章/著(講談社)
『西洋美術館』(小学館) 他