マティスの描く「ヌード」の特徴
「ヌード」を描いた作品には、第1回で紹介した点描の《豪奢・静寂・逸楽》や《生きる喜び》、《生きる喜び》の中央部分と同じ輪舞する男女をテーマにした《ダンスⅡ》《音楽》(第2回参照)といった裸婦像群があります。
また、《青いヌード—ビスクラの思い出》(第2回参照)、パリの美術館が初めて購入した《赤いキュロットのオダリスク》(1921年)、後半生の作品には、これまでと画風を変え、平面的で単純化された表現の《大きな横たわる裸婦(ピンク・ヌード)》(1935年)など、横たわる裸婦像も多く手がけています。
晩年の切り紙絵で4点の連作《ブルー・ヌード》(1952年)もマティスの代表作です。これらは際立ったヴァリエーションを示しており、マティスの幅の広さや芸術的進展を示す作品です。
このほかにもセザンヌを意識しているような初期の造形性がみられる《カルメリーナ》(1903-04年頃)や、装飾という言葉と表現様式にマティスが追求した芸術のあり方を端的に示している《模様のある背景の装飾的人体》(1925-26年)、《大きな横たわる裸婦(ピンク・ヌード)》とほぼ同時期に描かれた《座るバラ色の裸婦》(1935-36年)などの代表作があります
またマティスは、1917年からは南フランスのニースを活動拠点として、《赤いキュロットのオダリスク》を代表とする「オダリスク」と呼ばれるハーレムの女性をモティーフにした多くの絵画を制作しました。この時代はマティスだけでなく、オリエンタリズムを支持した多くの芸術家が、オダリスク作品を描いています。
しかし抽象的な肉体表現などから、この時代をマティスが力を抜いた「弛緩時代」と批判する者も多くいました。
模様のある衝立や布など、「オダリスク」の装飾性は、その後の作品に見られる絵画の中の空間の平面性の強調に繋がっています。また、画面空間と人体のボリュームを組み合わせるという造形的な課題にも取り組み、装飾と肉体表現の試行錯誤が見て取れる作品群です。