本人が自分の陰の部分という、木板にアクリルを塗り、それを削ることで作った抽象画や、クリスタルを多用した立体的な作品群

本人に聞く、三浦大地とはなにものか?

鉱物も木材もプラスチックもデジタルも自在に使いこなし、作品は平面も立体もその中間的なものもある。展覧会全体のキュレーション、展覧会で流す音楽の選曲もやる。解剖学とか遠近法とかいった技術はないかもしれないけれど、現代アートのアーティストとして申し分のないマルチな実力を発揮する三浦大地さん。しかし、オーセンティックなアートの文脈から生まれたのではなく、自らを規定する肩書も持たない。三浦大地さんにはそういうこだわりがない。

「僕、専門学校でファッションやってたんですけれど、卒業してから一度も就職していないんですよ。それくらいラフに生きているっていうか、名刺のデザインしてって友達からお願いされて、イラストレーターとかフォトショップとか使えない状態から、手探りでやって、デザインして、それを友達に納品するとか、そういうのからはじまって、今に至る、っていう感じなんです。だから、全部、口コミっていうか、紹介、紹介で繋がっていって。肩書で仕事を与えられてっていうことがないんです。税理士だから、どこどこの会社の役員だから、ということが僕にはない」

「マンションのプロデュースもやったことあるし、地方創生とか、クリーンエネルギーの親善大使とか、まったくちがうこと、ファッションデザイン、ラグジュアリーなこともやっているし、なんでもあり。人が喜んでくれることが僕の仕事です」

「今回、アートをやっているのも、僕、アートをやろうなんて一回もおもったことなくて。縁がある女性から、アート興味ある?って聞かれて。僕はアートが好きだけれど、自分でアートを作ることは考えてなかったです。でも、やってみる?って言われて、はいって。そういう感じでいろんなことがはじまっていくっていくんです」

そこから約1年かけて、おおよそ200点もの作品を生み出し、それを展示・販売したのが、2022年7⽉に、やはり伊勢丹新宿店にて開催された、三浦大地初の⼤規模アート展『DAICHI MIURA ART EXHIBITION “MODERATION”』。それは大成功を収め、国際アートフェア「VOLTA BASEL 2023」への出展も果たしたが、それもやはり、自発的な野心があったのではなく、縁だという。

「一緒に仕事している人も、仲いい人みたいな関係から、仕事に変わっていく。境界線が曖昧なんですよね。色々な仕事をしていますから仕事だけの関係という人は、いないわけではないですけれど、たいてい仲良しです。そうでなくても、一緒にご飯食べに行く人もいて、仲良しになっちゃいます。相性の合う人としか、仕事をしないというか、相性のいい人からお仕事の依頼をもらうっていう感じで。恵まれているんです」

三浦大地さんは「概念」という言葉をよく使う。それは、本人のお話のなかから筆者が解釈するに、物事を規定する枠組みだ。コップは液体を入れるもの、この人は家を作る人、そういうものを指して三浦さんは「概念」という。

「僕、幼少期に、世の中の概念に縛られて生きていた。僕がその概念にはまらない人間だったので、すごく苦しかったんです。そのときに自傷グセがあって、でもそれがあったから、よかったっておもいます。それすらない、普通に馴染んでいる人だったら、僕はこれをいまやっていないとおもうし、その過程があったからいまこうなれているっていうことで、悪いとかいいとか決めてつけているのは他人なので」

三浦大地さんの「Josie(ジョシー)」は女子から命名されている。写真のカラフルなジョシーたちは、女性が主にやってきた仕事のスタイルをしている
「いまって男女の区別をすることを差別として嫌いますけれど、人には得意不得意があるような、区別はあっていいんじゃないかとおもっています。今の世の中ってハラスメント全部NGじゃないですか? でもそれがなかったら、僕、いまこうなってなかったとおもう」

今回、 「DIALETHEISM」という賢そうなタイトルをつけていることについては

「賢そうって言われるのはすごく嬉しいですね。世間ではカシコっぽそうなのがアートだとおもわれているじゃないですか? それをわざとやろうとおもったんですよ。小難しい感じを入れ込むことによってそれこそ、お客さんの幅がもっと広がるかなとおもったんです」

「Josieは自分の家紋みたいなもの」ということで、自分の家紋が描かれた提灯と並べている。この作品も、文様、和素材、平面と立体……と解剖すれば複雑な要素で成り立っている

「前回は中庸(MODERATION)をテーマとしていたんですけれど、それはわかりやすい。いいも悪いもなく、真ん中にいること。禅の世界みたいな。そういう風に言えば、みんな、なんとなくわかるじゃないですか? でも、これが「真矛盾主義です」とか言うと、なに?ってなる。ピンとこない。誰もピンとこない。なんなら僕もまだピンときていない。でも、このモヤっと感みたいなものが必要なんです」

「世の中って絶対正解を知りたがるんですよ。このアートってどういう意図なんですか? って聞いて、それを作者が答えて「あ、そっか」ってスッキリする。そうやってクリア。でも、クリアしていることは社会的概念の正解ばっかりで、それが僕を若い頃に苦しめていた。クリアしないほうが楽じゃん? 正解や不正解がないほうが楽じゃん? スッキリしない領域が存在しているほうがいいんじゃない? このモヤっとした感じを、みんなに共鳴するっていうか、それを許容するっていう」

そんな話のなかで、三浦大地さんは、筆者がおもうに、アートの本質をついているとおもえる言葉を発したので、これを共有してこのページの最後としたい。

「アートで「あ、そっか」って納得したら、そこで終わりなんですよ」

わずか一週間の会期だけれど、世界が注目する三浦大地さんの、このバイブスを、ぜひ、共有してみて欲しい。