「いづ源」の京寿司盛り合わせ。鯖寿司、巻寿司、箱寿司の3種。鯖寿司を包む昆布は白板昆布。箱寿司にはタイかヒラメの酢締め、焼いた鱧の「つぶし」、エビ、厚焼玉子。巻き寿司には、白炊きのカンピョウが

京寿司の流儀は、仕事は見せない、醤油はつけない

平成19年に京都府の「現代の名工」の認定を受けた「いづ源」市田泰之さんのつくる「京寿司盛り合わせ」は、具材、断面の美しい切り方、端正な置き方のバランスも完璧な、京寿司のスタンダードだ。京寿司を代表する鯖寿司は、古い郷土食だったが、老舗「いづう」が、花街の宴席に出せる姿に洗練させた。「いづ重」「いづ源」は「いづう」の暖簾分けで、「美しさ」も京寿司らしさとして表現する。

「いづ重」の鯖寿司。郷土食だった鯖寿司を、「いづ重」の母屋にあたる名店「いづう」が洗練させた

「いづ源」、「いづ重」にはイートインスペースがあるが、江戸前寿司のようなカウンターはない。注文した寿司は、盛り付けて席に運ばれる。客に裏の仕事は見せず、完成品を提供するのは職人の美学だ。食べる側はそれを汚さないよう醤油につけないのが流儀だ。が、醤油をつけないことは、京寿司が、醤油が普及する以前の食べ物だから、という説もある。熟成を経ていないにぎり寿司に、発酵調味料の醤油のうまみを補う、というのは、合点がいく。

小上がりとテーブル席のある、「いづ源」の店内

時間が作る味

「京寿司の特徴は、時差の美味しさだと思います」と市田さんはいう。

大正期の創業「いづ源」三 代 目 の市田泰之さん

「下ごしらえに長時間かけて、寝かして食べる。朝つけて、夕方食べるくらいがちょうど。巻き寿司の海苔もしっとりと膨らんできて、ネタとご飯が調和します」

季節感も「時間」のおいしさだ。店内の絵や、盛り付ける器は季節によって変える。冬だけの「蒸し寿司」という温かい寿司も、京寿司の名物だ。

蒸し寿司の提供は3月まで。たっぷりの錦糸卵、肉厚のキクラゲが乗る。器は錦手の伊万里

 海外の食通を惹きつける「にぎりじゃない寿司」

日本のにぎり寿司が世界で人気となっている今、“にぎりじゃない寿司” の存在感が高まっている。「いづ重」の北村さんは、松茸やグジを押した、新しい寿司も考案し、常連も、観光客も飽きさせない京寿司をつくりつづける。

「洛中洛外図屏風を見ると、寿司を楽しむ庶民が描かれています。昔の味の再現ではなくて、面白く進化して、昔の人が寿司に感じた感動を、掘り起こしたい」