世界的名画《ひまわり》を起点に、フィンセント・ファン・ゴッホと西洋絵画の巨匠たちの静物画を紹介する展覧会「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」。東京・新宿のSOMPO美術館にて開幕した。

文=川岸 徹 撮影=JBpress autograph編集部

「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示風景。左から、フィンセント・ファン・ゴッホ《アイリス》1890年5月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団) フィンセント・ファン・ゴッホ《ひまわり》1888年11月〜12月 SOMPO美術館 

ゴッホの世界観を「静物画」で読み解く

 2020年、SOMPO美術館移転後の開館特別企画展として開催される予定だった「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展。だが、新型コロナウイルスの世界的な流行により延期。3年の年月を経て、今年10月に念願の開幕を果たした。

 展示される作品は、オランダのファン・ゴッホ美術館やクレラー=ミュラー美術館をはじめ、国内外25の美術館から集めたもの。社内の会議をリスケするだけで一苦労なのに、これだけの規模の展覧会を日程を変更して作り直すのは、相当たいへんなことだっただろう。まずは開催を実現させた美術館スタッフと関係者にお礼を言いたい。

 さて、「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展。ゴッホにスポットを当てた展覧会は日本国内でも毎年のように開催されているが、本展はタイトルにもある通り「静物画」がテーマ。ゴッホは自画像や風景画など多彩なジャンルの作品を残しているが、静物画も主要ジャンルのひとつといえるほど数が多い。

 ゴッホの画業は27歳から37歳までのわずか10年間。その中でゴッホは850点余りの作品を描いたが、そのうち約180点を静物画が占めている。とはいえ、ゴッホが目指していたのは人物を描く画家で、静物画は絵画の技法を習得し、色やタッチを研究するための「修行」のようなものだった。だが、ゴッホの静物画への評価は高く、なかでも花の静物画には《ひまわり》をはじめ名品が多い。

 

暗くて重い初期の静物画

 展覧会は「伝統/17世紀から19世紀」「花の静物画/《ひまわり》をめぐって」「革新/19世紀から20世紀」の3章構成。それぞれの章でゴッホの作品とほかの画家の関連作が紹介され、ゴッホがどんな影響を受け、またゴッホが後世にどんな影響を与えたのかを探っていく。

「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示風景。フィンセント・ファン・ゴッホ《髑髏》1887年5月 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

 第1章「伝統/17世紀から19世紀」では、ゴッホが画力を高めるために多彩なモチーフに挑んでいたことがよくわかる。どんなモチーフかというと、《コウモリ》(1884年10月〜11月)、《野菜と果物のある静物》(1884年秋)、《鳥の巣》(1885年9月下旬〜10月上旬)、《燻製ニシン》(1886年夏)、《髑髏》(1887年5月)など。大半の作品は、暗くて重くて地味。「これでは売れるわけがないよな」と思ってしまう。

「ゴッホと静物画―伝統から革新へ」展示風景。フィンセント・ファン・ゴッホ《野菜と果物のある静物》1884年秋 ファン・ゴッホ美術館、アムステルダム(フィンセント・ファン・ゴッホ財団)

 それは当然ゴッホも分かっていた話。1885年10月に弟テオに宛てた手紙に「最近は静物画をたくさん描いている。こういった絵は、売るのが難しいことは分かっている。しかしこれはものすごく為になるし、冬の間は続けようと思う」と記している。